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第9話
「美味いな、このワイン」
ウェイターが持って来たワインを一口飲み、光輝は目を輝かせる。
「うん。結構いけるな、これは」
「これさ、龍二さんが生まれた年のワインなんだ」
「え?そうなのか?」
そういえば、注文の時に光輝がスタッフにこそこそと何やら耳打ちをしていたが、このことだったのか。
「お前、そこまで考えてたのか?まるで恋人同士だな」
冗談っぽく言って、柴田は少し笑った。
「べ、別にそんなんじゃないけど、いいだろ?」
ややムキになって、光輝が反論する。
そんな姿を、柴田は少しだけ可愛いと感じた。
「ありがとうな。まさかお前に、誕生日を祝ってもらえるとは思わなかった」
「う、うん……。でも、本当は他に祝ってくれるヤツいるんじゃないかと思った。大丈夫なのか?」
「あぁ。大丈夫だよ。他に、祝ってくれる人なんていないさ」
「え、病院の看護師とかは?」
「いや。プライベートでは関わったりしないし……第一俺は……」
『ゲイだし……』そう言おうとしたところで、止めた。
「そう?俺の方こそ、祝わせてくれてありがとう」
光輝にしみじみと言われ、柴田は調子が狂ってしまいそうになる。
「黒毛和牛のローストでございます」
食事を進めていくと、しばらくしてメインが運ばれてきた。
「美味しそう……」
料理を目の前に、光輝は目を輝かせる。
「そうだな。でもお前、美味いもん食わせてもらってるんじゃないのか?業界の人とかに」
「いや、そうでもない。俺、普段は結構ふつうだよ」
「そうなのか?」
柴田が聞くと、光輝は料理をナイフとフォークで切り始める。
「うん。そんなもんだよ」
切った肉を口に運ぶと、光輝は美味しそうな顔を見せた。
その顔を見て、柴田はなぜか癒されるような気がした。
「美味いな、コレ」
光輝の言葉を聞き、柴田も同じ料理を口に運んだ。
「本当に美味いな」
正直、これまでに食べた肉料理の中で上位にくる美味さだ。
柴田も何だか幸せな気持ちになる。
こういう時間も、たまにはいいかもしれない。
「ちょっとトイレ行ってくる」
メインを食べ終わった光輝は、`徐ろに席を立った。
料理を食べながら光輝の戻りを待っていると、デザートが二人分運ばれてきた。
頼んだつもりはなかったが、先程柴田が「食べたい」とメニューを見ながら呟いたものだった。
スタッフによると、光輝がいつの間にか注文してくれたらしい。
ただ、アイスが使われていたため、先にいただくことにする。
『あいつ、気が利くんだな』
そんなことを考えていると、光輝が戻ってきた。
「遅かったな」
「……ちょっとな」
ぶっきらぼうに言うと、光輝がデザートに目を向ける。
「あぁ、もう来てたのか。美味そうだな」
「先に食べてたぞ。溶けるからな。ありがとうな、これ」
そう言うと、光輝も「うん」と頷きデザートに口をつけた。
「あ、本当に美味い!」
一口食べると、光輝は無邪気な笑顔を見せる。
「これにして正解だったな」
柴田が微笑むと、光輝は頷いた。
「うん」
光輝の笑顔を見て、柴田はまた僅かにドキリとした。
そんな自分の心に、柴田は戸惑う。
食事を済ませて会計をしようとすると、光輝に止められた。
「あ、もう払ってあるからいいよ」
「え?」
「だって、龍二さんの誕生日なんだから、払わせるわけにいかないだろう?」
照れたように光輝が笑う。
「光輝……本当にいいのか?」
年下に奢られるのも、少し躊躇われた。
「いいんだよ。今日は奢られろって」
「分かったよ。ありがとうな」
何となく光輝の頭にポンと手を置くと、彼は顔を赤く染めて嬉しそうにした。
店のあるホテルを出て歩いていると、「ちょっと待って」と光輝に止められる。
「何だ?」
「これ……龍二さんに……」
光輝は、背負っていたデイパックから包みを取り出し差し出してきた。
「え、俺に?」
「うん、誕生日プレゼント」
「あ、ありがとう」
まさか、プレゼントまで用意してくれているとは思わなかったから、柴田は驚いた。
「それは、帰ってから開けてよ」
「あぁ。分かった」
返事をすると、光輝はさらに顔を真っ赤にする。
柴田が帰宅すると、妻は家にはいなかった。
きっと誰かと一緒にいるのだろう。
その誰かは、気にもならない。夫の誕生日にも何のアクションもない妻のことだ。
家で落ち着いたところで、柴田はプレゼントを開けることにした。
プレゼントは平たい縦長の箱に箱に入っていて、ある程度は中身が予想できる。
光輝の顔を思い出すと、柴田は表情が緩む。
『これは、明らかにネクタイだよな……』
そう思いながらも開けてみると、予想通りネクタイが入っていた。
ワインレッドの、渋さのあるおしゃれなネクタイだ。
『学会にもしていけるかな……』
柴田はそんなことを考える。
そして、忘れないうちに光輝にメールを送った。
「今日はありがとう。お前に祝ってもらえて良かったよ。プレゼントも気に入った。ありがとう」
すると、光輝からすぐに返事が返ってきた。
『喜んでもらえたら嬉しいよ。本当は、龍二さんが欲しい物をあげられたら良かったんだけど、分からなかった。もし良かったら、使ってくれ』
「ネクタイ、センスも良いし使わせてもらうよ。ありがとう」
『うん。龍二さんがネクタイしてくれてるとこ、見てみたい』
「え?まぁ、その機会があればな」
そんなやり取りをしていたら、柴田は寝落ちをしてしまった。
久々に、心地よい夜だったかもしれない。
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