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第12話
次の日、二日酔いのまま医院に行くと看護師の町田に呼び止められた。
「何ですか?」
訝しく思いながら聞くと、町田は勝ち誇ったような顔を浮かべ、笑顔を見せる。
「会長がお呼びです」
「会長が?」
物凄く嫌な予感がする。
「すぐに来いと、おっしゃってますよ」
「分かりました……」
陰鬱な面持ちで、柴田は会長室に足を向けた。
会長室に入ると、そこには会長以外の人物もいた。
「梨華……何で……」
そこにいたのは、柴田の妻であり会長の娘である梨華だった。
彼女は今朝、自宅にいたはずだ。
いつもと変わらずに出掛ける様子も見せなかった。
それなのに……。
「なぜ私がここにいるのか、知りたいんですよね?」
考えていたことを見透かされ、柴田は内心ドキリとした。
背中を冷たい汗が伝う。
「いつの間にここに来たんだ?」
「別にいいじゃないですか、そんなこと」
感情の読めない冷めた顔つきで、梨華が言い放った。
「龍二くん。これは一体なんだ!」
部屋の奥の窓側にある机に座る会長が、週刊誌を机の上に投げつける。
開かれているのは、柴田の醜聞が載っているページだ。
「……それは……」
いざ会長を目の前にすると、何と言っていいか分からない。
「ん?記事のことは知っているんだろ?これは本当なのか?」
こうなったら、言い逃れはできないだろう。反対に、これまで良くバレずにきたものだ。
「はい。事実です。申し訳ありません」
「そうか……」
会長は深いため息を吐いた。
「実に残念だ。梨華がいるというのに」
そう言うと、会長は頭を抱えた。
「君が私の勧めで梨華と結婚したのは分かっている。けどなぁ……節操がなさすぎだろう」
「そうよ!夫としての責任感がなさすぎるわ!」
梨華が口を挟んでくる。
今朝までは普段通りだったのに、この場で責めてくるとは、どういうつもりなのかと思う。
もしかしたら、父親から呼ばれて初めて知ったのだろうか。
いや、それはないかもしれない。
柴田が出勤してくるよりも早く、梨華が医院にいることが解せない。
「じゃあ君は、妻としてきちんと家庭を守ってくれたのか?」
言い返すと、梨華はムッとした顔を見せた。
「あら。私はいつだってあなたの妻として支えてきたつもりよ!」
『そうかよ』と内心で呟き、柴田はため息を吐いた。
「二人とも止めないか」
会長が柴田と梨華を諌める。
「会長。僕は、今は記事のようなことはしていません。それは、過去のことです」
「そうなのか?」
「はい。本当です」
「まぁ、それはいいが……病院と娘の名誉を傷つけたことには変わりない。その罪は、償ってもらうぞ」
その声は、有無を言わさない迫力があった。
会長の言葉は、当然だろう。
「承知しています」
「そうか。離婚しろとまでは言わんが、医院の患者数を減らさず、増やすんだ。自分で医院を守るんだ」
「……仰せの通りにいたします」
「それと、梨華とも仲良くやってくれ。頼んだぞ」
「はい」
「償いとして、ブランドのバッグでも買ってもらおうかしら?」
応接セットのソファーで足を組む梨華が言う。
『バッグくらい自分で買えるだろう』と思うが、「分かった」と返事をして首を縦に振った。
この場では言い出せなかったが、本音では梨華とはすぐにでも離婚をしたいと思っている。
梨華だって実際には遊んでいるようだし、彼女との生活は自由なようでいて気詰まりなのだ。
この生活を維持しているのは、医院の院長というポストを死守するためである。
会長から院長の座を打診された時に、すぐさま受け入れたのは自分だ。
院長の座を守るために梨華を自由にさせてきたとはいえ、自分も奔放が過ぎたのだ。
実というと、柴田は会長から即刻クビだとか離婚しろなどと言われるかもしれないと考えていた。
けれど、そこまでは言われなかったため内心ホッとしている。
これからが大変になるだろうことは、容易に想像できるのだが…。
柴田の想像は当たった。
その日は午前中から電話が頻繁に鳴り、苦情や問い合わせが殺到した。
「週刊誌の記事は本当なのか」ということだ。
新規で予約が入っていた患者からは、キャンセルの連絡も入ったという。
その数は一件だけではない。
午後は、医院を閉めた方がいいだろうかとも思う。
柴田が途方に暮れていると、一体どこから自分のことが外部に漏れたのだろうかという点に思い至る。
『俺が喰った患者が……出版社にネタを売ったのか?』
そうだとしたら、一体どいつだ?もい患者の中にネタを売った者がいたとしたら……。
喰った患者には十分な金は払ったはずだが、猜疑心に苛まれそうだ。
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