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第14話
次の日には、しばらく振りに陽葵から夜に食事に誘われた。
話があるということだが、話題なら想像がつく。
医院の近くにある居酒屋で待ち合わせたが、陽葵は柴田よりも少しだけ遅れてやってきた。
「悪い、遅くなって。仕事が長引いたんだ」
「大丈夫だよ。そんなに待ってない」
「そうか」
ホッとした様子で、陽葵は柴田の向かいに座った。
「生ビールでいいか?」
メニューを開いていた柴田が問うと、陽葵は「あぁ」と頷いた。
「枝豆は外せないよな」
「刺し身の盛り合わせも食いたいな」
「じゃあ、それも頼むか。後は……」
近くにいた店員を呼びオーダーして少し経つと、二つの大ジョッキが運ばれてきた。
「お疲れ様」
「お前もお疲れ」
カチンとジョッキを合わせてから、ビールを喉に流し込む。
改めて見ると、陽葵は今もいい男だと思ってしまう。
高校の頃から男前だったが、自分の目に狂いはなかったと思える。
もうあの頃には戻れないけれど。
「それで、病院の状況はどうなんだ?その……影響とかあったり……」
「それ、光輝にも聞かれた」
少しだけ『またか』と思いながら、柴田はビールを口にした。
陽葵の顔をチラリと見ると、僅かながらムッとしているように見える。
「何だ……アイツと連絡取ってるのか」
「あぁ……飯食ったりしてるだけだけどな」
「ふぅん……そうかよ」
何故か陽葵が不機嫌そうなので、柴田は不思議に思った。
それから陽葵が不機嫌になった理由に気付きそうになったものの、敢えて気付かないフリをした。
「それで?病院の状況はどうなんだよ」
「あぁ。その話だったな。患者の数は明らかに減ってるよ。受診予約もかなりキャンセルになってるし」
説明をしていると、気分が重くなる。
「このままだと、マジでヤバいな……。院長を解任されるかも」
そして、梨華と離婚することになるだろうか。
「え?解任?」
「あぁ。会長から、患者数とか維持しろとか言われてたんだけど……数減ってしまったからな……予想はできてたんだけど……報道の影響だな」
柴田は自嘲気味に笑った。
「それはまずいな……」
「俺、せっかく手に入れたこの地位、失いたくない……」
泣きたい気持ちをぐっと堪えた。
自分の業とはいえ、今ある院長という地位は死守したい。
何とも身勝手だなと思う。
「俺も、お前の記事のネタの出どころを探ってみたんだ」
「そうなのか?」
陽葵からはしばらく連絡がなかったが、その間に動いてくれていたのか。
「あぁ。記事を書いたヤツに口を割らせたんだが、女からネタを買ったって言ってた」
「女?」
男同士の話なのに、なぜ女が出てくるのだろうか。
もしや、自身の周辺にいる女性の中にいるというのだろうか。
柴田の脳裏には、知っている女性たちの顔がチラつく。
ただ、妻の梨華は報道されるまで知らなかったようだから、除外されるのか。
「そうだ。それで、その女の素性を聞こうとしたんだけど、それは口外できないって言われてさ……」
ネタをたれ込んだのが誰なのか分からず、柴田は内心落胆した。
しかし吉沢にも調査を依頼しているため、全てが明らかになる可能性はある。
「そうか……実は、探偵にも調べてもらってるんだ」
「あ、あぁ。そうだったのか。なら、見つかるかもな」
「だといいけど。まだ連絡を待ってる段階だから」
柴田が苦笑すると、陽葵は一段と神妙な顔つきになった。
「なぁ。俺にできることはないか?」
「陽葵……」
「お前の役に立ちたいんだよ。お前が辛い顔してると、俺も苦しくなる」
切実さをはらんだ陽葵の目に、柴田はつい全てを彼に委ねてしまいたくなる。
でも、そうはできなかった。
「サンキュ。何かあったら頼むから」
そう告げると、陽葵が少し不満げな表情を見せた。
「何でお前は……俺に頼ってくれないんだ?少しくらい、頼ってくれよ」
陽葵は、柴田が頼るつもりはないことに気付いたのかもしれない。
彼は、悔しそうに見つめてきた。
「ありがとう。お前に話を聞いてもらうだけで、助けられてるよ」
言えるのはそこまでだった。
陽葵が望んでいるのはこんな言葉ではないはず。
それは分かっているけど……。
「龍二……お前……」
「何だよ」
「いや、何でもない。悪い。そろそろ俺、帰るわ。じゃ、またな」
陽葵は何も言わずにそのまま帰ってしまった。
一体どうしたというのか、柴田には皆目見当もつかない。
『俺の返事が、納得できなかったのか?』
そんなことを考えて、柴田は残っていた酒を飲み干した。
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