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第17話

ある日の午後に、会長が医院にやってきた。 看護師の横田によると、多数の患者が座る待合室を見て満足した様子だったという。 診察が落ち着いた頃を見計らった会長が、柴田のところに顔を見せ「これで安心だな。今後も頑張ってくれ」と上機嫌で言い残していった。 自身の危機は去ったのかと胸をなでおろした柴田だが、何だか拍子抜けしたような気もする。 また何か、物事が起きるのではないかと思えてならないのだ。 柴田は、光輝からどういった了見でCMに出たりしたのか、確かめたくなった。 昼休みにメールをしたら、光輝がその夜に食事をしようと提案してきた。 ちょうど、時間が空いているのだという。 しかも、光輝の家で食べようと言ってきた。 デリバリーでもするのかと思ったが、光輝自身が作るという。 メニューを尋ねてみたが、光輝は「ナイショ」と言って教えてくれなかった。 「取り敢えず家に来て。住所送るから」 光輝がそう言うので、柴田は仕事が終わってから指定された住所に素直に向かった。 到着したのは、繁華街に近い六階建てのマンションだった。 『ここか……』 さほど高さはないが、大きくて高そうな雰囲気だ。 それだけ稼いでいるということだろうか。 柴田の住まいもそれなりのレベルのマンションだが、それと大差ないグレードだと思われる。 光輝に連絡して部屋の前まで通してもらい、インターホンを鳴らす。 すると、すぐに彼がドアを開けてくれた。 「いらっしゃい。さぁ、入って!」 光輝は満面の笑みだ。 「おじゃまします」 光輝は独り暮らしだからか、柴田の部屋よりは幾らか部屋数が少なくコンパクトのようだ。 しかし、リビングは広く解放感があり、大きな窓から見える外の眺めも良好だろう。 「いいトコ住んでるんだな、お前」 「そうかな。マネージャーが、セキュリティしっかりした部屋にしろって言うからさ」 光輝は照れ臭そうに笑った。 「俺、いつか龍二さんに認めてもらいたくて、これまで頑張ってきたんだ。少しでも、アンタに近付きたくて」 「光輝……」 柴田が上手く返事をできずにいると、光輝は微笑んで柴田の肩に手を添えた。 「まぁ座って」 「あ、あぁ」 少し緊張しながらも、柴田は高級そうなソファーに腰掛けた。 こんな広い部屋に住み、座り心地抜群のソファーに座れるようになるまで、光輝はどれほどの努力をしてきたのだろうかと思う。 少しの間待っていると、良い匂いが漂ってきたことに気付く。 柴田の食欲を刺激してくる。 彼の大好物の匂いだからだ。 『この匂いは……』 まさかと思い見上げると、光輝が料理を持ってきていた。 そして彼は、ソファーの前のテーブルに料理の盛られた皿二つを丁寧に置く。 「お前、これ……」 柴田は動揺を隠しきれなかった。 「うん。龍二さんが好きだったオムライス」 「お前、覚えてたのか……」 「もちろん!高校の頃、兄貴とかとファミレス行ってて、良く食べてたから。好きだって言ってただろ?オムライス」 柴田は意表を突かれた。 確かに昔からオムライスが好きで、外食でも良く注文していた。 そのことをずっと光輝が覚えていたことに、柴田は驚く。 「まさか、お前がそんなこと覚えてたなんてな……」 「だって……大好きなアンタのことだから……」 自分で言いながら光輝の頬が赤くなったので、柴田のそれも釣られて赤くなる。 「なぁ。腹減ったし、そろそろ食わない?冷めちゃうしさ」 光輝はそう言いながらドカっと床に腰を下ろした。 「あ、あぁ。そうだな」 柴田も光輝に倣い床に座る。 美味しそうな匂いを嗅いだら、柴田の腹がぐぅと鳴った。 すると光輝が少し笑う。 「龍二さんも腹減ってんだろ?口に合うかは分かんないけどさ、食おうぜ」 「ありがとう。じゃあ、いただきます」 ひと口食べると、何だか懐かしい感じがした。 母親がかつて作ってくれていた味に似ていたからだろうか。 なぜこうも似た味になったのか不思議だが、たまたまかもしれない。 腹が減っていたからだけでなく、美味しい。 柴田はあっという間に平らげてしまった。 「早いな、食うの」 少し呆れ気味に光輝が笑う。 「ま、まぁな。腹減ってたし……」 「いつか……俺のつくったオムライスを食べてもらいたくて……高校の頃に、初めて作ってみたんだ。良かった、願いが叶って」 光輝が微笑みながらしみじみと言うので、柴田の頰は少し熱くなった。 「知らなかったよ」 「当たり前だろ?密かに考えていたことだからな」 「まぁ、そうだな」 光輝が作ってくれたオムライスを食べたことで、柴田は妙な気分になった。 今まで誰かにここまでされたことはないし、こんなにも好意を向けられたこともなかったから。 でも、なかなか悪くない気分だ。

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