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第26話
ドラマは録画していた四話まで見終わった。
「五話からはさ、ちゃんと家で見てね?あ、ウチで見てもいいけどさ」
「じゃ、木曜日放送なら毎週金曜日はここに来なきゃな」
光輝の髪を撫でると、彼は苦笑しつつ「それは無理だよ」と言う。
「あ、お前は毎週金曜日空いてるってわけじゃないか」
「そうだよ。ま、会う日にまとめてウチで見るって方法もあるね」
「あー、そうだな。でもそれじゃ、やることする時間が減る……」
「もー、龍二さんってやっぱエッチなんだな。お楽しみの時間はちゃんと確保するって」
「うっ、うるさい……」
大いに赤面した柴田に、光輝が不意打ちで頬にキスをしてきた。
「あ、そういえばさ、聞きそびれてたけど……龍二さんは婿なんだろ?」
「あぁ。何だ?突然」
「ずっと疑問だったんだよ。何で旧姓の柴田のままなの?」
今更聞かれるとは思わなかったので、柴田は意表を突かれた。
「元からの苗字のままで仕事がしたくて、会長に頼んだんだ。嫁に行った女性芸能人も旧姓で仕事したりしてるだろ?」
「あー、そういうことか。やっとすっきりした!聞けて良かったよ」
「何だ、そんなに気になってたのか?」
「まぁね。聞こう聞こうと思って、聞き忘れてた」
こういうところも可愛いと、柴田には微笑ましく思えた。
「抜けてるんだな、お前」
柴田が笑うと、光輝は頬を膨らませた。
実は、柴田は光輝のこんな表情が密かに好きだ。
「仕事は柴田名義でやってるけどな、戸籍上は八嶋姓になってるんだ」
医院には苗字は使用していないから分かりにくいが、医院の会長の姓は八嶋という。
だから、八嶋家に婿に入った柴田は現在は八嶋龍二が本名となる。
「八嶋かぁ……」
光輝は複雑な表情を見せた。
「ちゃんと、柴田に戻るから」
「え?」
きょとんとした顔の光輝に、柴田は真剣な目を向ける。
「今度、妻やウチの医院の会長にも話をして、離婚について話を進めていくから。もう少し待ってくれ」
「本当に、本当にこれでいいの?」
「あぁ。お前が俺に惚れてくれてるなら、これしか道はないからな」
柴田はそっと光輝を抱きしめた。
「俺も……どうなったとしても……後悔はしない」
光輝の腕が、力強く抱き返してきた。
光輝と付き合うようになってから一カ月、柴田は幸せを感じてもいたが準備を開始した。
今ある地位を捨てる準備だ。
とある夜、柴田は久々に妻の梨華と夕食を取った。
本当に珍しいことなので、梨華が警戒をしているのが分かる。
食事を終えた後、彼女は淡々と尋ねてきた。
「何か、話があるんじゃないですか?」
梨華は何かを察しているようだ。
「あぁ」
良い話ではないから、なかなか切り出しにくい。
「何よ、早く言ってくださいよ」
梨華が少し苛立ってきた様子が見えたため、渋らずに伝えることにした。
「梨華……申し訳ない……離婚してくれ」
柴田が告げると、目の前の妻は一瞬目を見開いたが、すぐに元の警戒心を孕んだ表情に戻った。
「そう……本当に、それでいいんですね?今の地位を捨てる覚悟があるっていうことですか?」
「そうだ」
「そうですか……まぁ、仕方ありませんよね。あなたの気持ち、私もずっと気付いていましたから。だから、私も好きにさせていただいていましたけど」
「……別れてくれるのか?」
「えぇ。でも、父にしっかりと話をしてからにしてくださいね」
「それは、もちろんだ」
これから会長に話さなければいけないと思うと心が重くなるが、ここで怯んではいられない。
「そう。これまでありがとうなんて言いませんよ?今まで、何かしてもらったことなんてないですからね」
トゲのある言葉に、柴田は何も言い返せない。
夫婦とは名ばかりの生活だったから。二人で旅行に行ったことなんて、もちろんない。
「あぁ、そうだな……。一つ、聞かせてくれ」
「何ですか?」
梨華が怪訝そうな顔を向けてきた。
「君は何で、俺と結婚したんだ?」
「……それは、自由にさせてくれそうだったことと、父のクリニックを継ぐに相応しいと思ったから、ですかね」
「そうか……」
梨華の答えを聞いた柴田は、その場から去った。
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