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第27話
翌日は休診日だったため、柴田は朝食を済ませた後に同居する会長の書斎を訪ねた。
「こんな時間に部屋に来るとは、珍しいな。何か用か?」
「はい。大事なお願いに上がりました」
柴田がそう告げると、会長は眉を顰(ひそ)め表情を険しくした。
「何だ?願いとは」
会長の顔を見ると気圧されそうになるが、言わなければ前に進めない。
「これ以上、梨華さんを苦しめられません。梨華さんと……お嬢さんと離婚をさせてください」
普通の家庭なら、離婚をする場合には夫婦同士で話し合った上で決めるものだろう。
しかし柴田が婿に入った八嶋家は、それだけというわけにはいかない。
今でも会長が権限を握っているのだから。
会長の視線が刺さる。
「その理由は何だ?」
「……それは……梨華さんの他に大切な人ができたからです」
嘘偽りなく話すと、会長はますます顔を曇らせた。
「嘆かわしい……我が医院の婿が……」
頭を抱える会長に、この場を早く去りたい衝動に駆られる。
「梨華さんの夫として、責任を最後まで果たせず申し訳ありません」
「まぁ……私も共に暮らしてきて君たち二人の仲は気付いてはいたんだがな」
「やはり……そうでしたか……」
「もちろんだ。私も、黙っていたことは罪かもしれないな」
会長は自嘲気味に弱く笑った。
「そんな……」
「しかし君は、娘との離婚が意味することを分かっているのか?」
「……はい。院長の座は退くつもりです」
「そうか。覚悟ができているということだな?」
柴田は頷き「はい」と答えた。
「ところで、君が去った後の院長は誰がなるんだ?」
確かに、新たに院長を据えなければ去ることはできない。
しかし、どうしたものか…。
医院には副院長もいるが、副院長になってもらう方法もあるが。
「副院長の寺田先生は……」
「そうだな。寺田先生に打診してみよう」
会長の言葉に、柴田は内心ホッとした。
これで、医院を去ることができそうだから。
「ただな……医師が足りなくなることには変わりないだろう」
会長の呟きに、柴田はハッとした。
「そう、ですね……」
YTメンズクリニックは、柴田と寺田の他に二名医師がいる。
柴田が抜け三人になれば、人員が足りなくなるだろう。
「そこでだ。新しい美容整形の医師を見つけてくれないか」
「わ、私がですか?」
「そうだ。それが離婚の条件だ。腕の良い先生を頼むぞ」
口調は柔らかいが、眼差しは有無を言わせないと語っていた。
さて、YTメンズクリニックに来てくれる医師はいるだろうか。
柴田が他の医院から、医師をスカウトしなければならない。
優秀な医師なら、勤務先の医院は手放さないだろう。
柴田は「はい」と返事しながらも、内心溜め息を吐いた。
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