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第30話
「光輝と今も仲良くやってるんだな。俺には一つも連絡くれなかったのに……」
椅子を一つ空けた隣に座る陽葵が、拗ねたように言ってきた。
「それは……」
確かにこのところ陽葵と連絡を取ることはなかったが、何と言って良いか分からなくなる。
「アイツと……付き合ってんのか?」
陽葵が悲しそうな目を向けてきたが、彼には誤魔化すわけにはいかない。
相手である光輝はここにはいないが、はっきりさせておいた方が良いだろう。
「あぁ、そうだ。付き合ってるよ」
「俺の気持ちを知っているのに……」
そう言った陽葵の表情は悲しそうに見える。
「悪かったよ。付き合いだして、まだそんなに経ってないんだ。言おうと思ってたんだけれど、バタバタしてて……」
「そうかよ……でもお前……家庭があるんじゃなかったのか」
「それは、離婚に向けて準備を進めているよ。もう妻には話してある」
陽葵は酒をひと口飲み、眉を顰(ひそ)めた。
「それでいいのか?これまで守ってきた地位なんじゃないのかよ」
その声は、苛立ちも混じっているように感じられた。
「あぁ。そうだな……でも、光輝がいるなら、地位は捨てられると思ったんだ。妻がいながらアイツと付き合えないし」
「クリニックを辞めて、どうするんだよ」
「まぁ、どこかでまた頑張るよ。どこでだって、頑張れるはずだから」
もう柴田は、自分の今ある地位よりも光輝を選んだのだ。
「俺の入る余地はもうないんだな……後悔、しないのか?」
「もちろん。しないよ。だから、お前も早いところ誰か見つけろ」
その言葉は、陽葵にとっては心を抉る凶器にすらなり得た。
「ハハ。残酷だなぁ。お前は、グサっとナイフを刺してくるなよ」
陽葵が苦笑交じりに言うと、光輝がちょうど席に戻ってきた。
すると陽葵は「そろそろ帰るわ」と言い席から立ち上がる。
まるで光輝を避けているようだ。
そして去り際に、光輝に対して「龍二を頼んだぞ」と呟き、ポンと肩を叩いていった。
陽葵の胸中に、どんな思いが巡っていたのかは、察するに余りある。
彼の気持ちを知っているからこそ、申し訳ない思いでいっぱいだ。
「陽葵」
思わず反射的に陽葵を追いかけようとしたが、光輝に止められた。
「行かないでよ……」
陽葵が去った方向に目を向けたものの、彼は既に姿を消していた。
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