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第31話

状況を見守っていたバーテンダーは、複雑そうな表情をしている。 突然に陽葵が帰ってしまったこともそうだが、三人の間に何かがあったこと程度は分かっただろうから。 しかし当然ながら、詳しく話を聞きだすことはしない。 「阿部さん、帰ってしまいましたね。何をお出ししましょうか」 何もなかったように笑顔で応対してくれるバーテンダーに、有難く思う。 「俺はジントニック」 「じゃあ、俺はジム・ビーム」 それぞれに注文すると、バーテンダーは「かしこまりました」と言い、手際よくドリンクを作り始めた。 「まさか、兄貴が来てるなんてな」 「あぁ。驚いたよ。お前、相変わらず陽葵と関係が良くないのか?」 それとなく問うと、光輝は顔を少し曇らせる。 「んー、まぁね。実家にもほとんど帰ってないし。連絡も取り合ってないからな」 「俺が言うのも何だが、兄弟は大切にしろよ」 「龍二さんが原因だろ?」 光輝はそう言って笑った。 彼にとっては、陽葵との仲など大したことではないのだろうか。 「陽葵に、俺たちのこと話したから」 「あ、あぁ。そっか……兄貴も龍二さんのことを未練たらたらだったからな。俺もだけどさ」 「アイツには本当に申し訳ないけど、お前じゃないと、ダメだからさ」 光輝の髪に手を伸ばしかけたところで、「お待たせいたしました。ジントニックでございます」と言ってバーテンダーが柴田が注文した酒をカウンターに置いた。 「あぁ、どうも」 柴田が酒を引き寄せたところで、光輝のジン・ビームも出来上がる。 「バーに来るのも久々だし、今晩は飲みたいな」 「明日、仕事は?俺は休みだからいいけど」 愛する人との夜を、存分に楽しみたかったのだ。 「うん、午後からだから酔っ払っても大丈夫だよ」  「そうか?じゃあ、とことん飲むか!」 少し下がり気味だったテンションが、少し上向いた気がした。 そろそろ日付が変わろうとしている時刻、柴田も相当に酔っていたが、光輝は柴田以上に酔っぱらい寝てしまっていた。 『潰れたか……』 陽葵と出くわすという出来事もあったが、楽しかったのだろうか。 少しホッコリとした気分になった柴田だが、光輝をこのままにしておくわけにはいかない。 「おーい、起きろよ」 柴田が肩を揺すると、光輝が僅かに身じろいだ。 「う〜ん……あ、龍二さん?もう朝?」 明らかに寝ぼけているが、そんなところも可愛い。 「何言ってるんだ。零時になるところだ」 「えー……?ここどこ?」 「バーの中だよ。一緒に飲んでただろ?」 「あー……そうだったね……」 一瞬目を開けかけた光輝は、また閉じてしまう。 「おい、コラ!寝るなって!」 光輝を揺すって起こそうとすると、片付けを始めていたバーテンダーが笑った。 「楽しかったのかもしれませんね」 「すみません、コイツ」 「いいえ。でも、しばらくは起きないかもしれませんね」 バーテンダーはコップを洗いながら苦笑する。 閉店が間近に迫る時間帯で、お客は柴田たちのみとなっていた。 「タクシー呼んで帰りますね」 「では、私の方でお呼びしますよ」 「あ、じゃあすみません。お願いします」 バーテンダーの好意に感謝しつつ、柴田は光輝を起こそうと頑張るが、やはり起きそうにない。 五分ほどでタクシーが到着したので、柴田は仕方なく光輝をかついで店を出ようとする。 「ありがとうございました。またいらしてくださいね。お気をつけて」 そう言って丁寧に頭を下げてくれるバーテンダーに、「はい。こちらこそ、ありがとうございました」と言い残してタクシーに乗り込んだ。

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