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第33話
その後、槙田は年が十二月からYTメンズクリニックで働き始めた。
柴田はまだ退職をしていなかったが、槙田をいつまでも待たせるわけにはいかないし、医師の手が必要だったからだ。
そして三月になり、柴田と梨華の協議離婚が成立した。
梨華の申し出により、慰謝料は必要ないということになった。
金なら余るほど持っているからだろう。
そして、柴田が医院で働くのは三月一杯までと決まった。
離婚に際して、柴田はマンションを借り引っ越すことになった。
八嶋家を去る日に、リビングにいたところに梨華が姿を見せる。
「そろそろ、行くの?」
「あぁ。これで、本当に終わりだな」
最後に柴田が梨華に対して言うと、彼女はフフっと笑った。
「まぁね。私も、これからはクリニックに縛られずに生きるわ。」
「俺と別れられて、せいせいしてるだろ?」
「本当は、あなたと心を通わせられたら良かったけれど……」
梨華のその言葉が本心なのかは分からないが、今となってはもう関係ないだろう。
「……そうだな。悪かったよ。俺がしてやれなかった分、今度こそ幸せになってくれ」
「えぇ。あなたも」
『ありがとう、今まで』と心の中で呟き、柴田は八嶋家を後にした。
一難去ってまた一難とは良く言ったものだ。
何か困難が起きて解決したとしても、平穏な日々は長く続かないこともある。
新たな生活を柴田が送り始めた頃、それは起きた。
YTメンズクリニックで働くのもあと少しという頃、出勤した彼は医院の部屋でパソコンでニュースチェックをしていた。
すると、自身と光輝についての記事が目に飛び込んできたではないか。
週刊誌のWeb版になっている記事であり、紙媒体でも発売されたようだ。
記事には、二人でバーに行った夜の写真や光輝の部屋を訪れた時の写真が掲載されていた。
最近は二人で会うことはなかったのに、なぜ今頃になって記事になったのか?柴田は不審に思う。
おまけに、記事を読むと離婚に向けて進めていることまでしっかりと書かれてあった。
『また書かれたか……』
そんなことを思うが、一体誰が撮ったのかが疑問だ。
知らぬ間に、写真を撮られていたというのか。
『迂闊(うかつ)だったな……』
もしかしたら、カメラマンに張られていたのかもしれない。
取り敢えずは仕事をしなければいけないので、柴田は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
すると、会長が柴田の部屋を訪ねてきた。
「君の相手というのは、俳優の若造だったのか……」
柴田の報道を知ったらしい。
会長の顔には、怒りや呆れなど様々な感情が内包されているのが分かる。
今度こそ本当に失望させてしまい、申し訳ないと思う。
「はい、その通りです。申し訳ございません。でも彼のことは、手放せません」
「梨華のことは……手放せられるということか。つまり君は、男が好きであることを隠して、梨華と結婚したということだな」
「はい……。そうなります……。僕は……院長という座のために、梨華さんと結婚しました」
柴田は仕方なく、真実を告白した。
「なかなか孫もできなかったし、薄々は分かっていたんだが……。私も家にいないことが多かったし、こうなるとは思いもしなかったよ」
「本当に、申し訳ございません」
柴田は頭を下げて謝罪した。
「しかし、またクリニックのことが記事になり、一体どうするつもりだ。君は出ていくから良い、というわけにはいかないぞ」
「そうですね。本当に、申し訳なく思っています」
柴田にはそう言うしかなかった。
医院は新たな院長が決まり継続はされていくが、会長としては八嶋家の存続が気がかりなのかもしれない。
柴田と梨華の間に子供ができなかったのだから、八嶋家の跡取りはいなくなってしまう可能性があるのだから。
「君がここを去るまであと一週間だ。しっかりと引継ぎをしてくれよ」
そう言って溜息を吐き、会長は部屋から出ていった。
光輝とのことが報道された日の二日後に、光輝は記者会見を開いた。
柴田は、光輝からそのことについて連絡を受けていた。
大々的に発表して大丈夫なのかと尋ねたが、「任せて」とだけ言われた。
『俺がこんな仕事だから、龍二さんに迷惑かけることとかもあるだろうけど、俺が守るから』
「光輝……。年下のくせに生意気言うなよ」
嬉しさと照れ臭さを隠すために、ぶっきらぼうに言う。
『俺だってカッコつけたいんだよ』
「ありがとうな。俺も、お前を失わないために頑張るから」
『うん。それじゃ』
慌ただしそうに光輝は電話を切った。
柴田は、光輝の会見の詳細をネット記事で見ることとなった。
会見で光輝は、「柴田さんと交際をしています」と認めたようだ。
そして報道内容を大方認め、記者からの質問にも真摯に答えたという。
また会見の最後には、「お相手の勤務先とされるクリニックが報道されていますが、クリニック自体は今回の件と無関係ですので、ご理解ください」と述べたのだ。
柴田が辞めることは伝えてあったが、医院への影響を考慮してくれたのだろう。
会見が行われてから、彼からは一切連絡がなかった。
会見の後にでも連絡してくるかと思ったが、柴田が電話をしてもメールをしても音沙汰がないのだ。
『アイツ、どうしたんだ?』
一体どうしたというのだろうか。
柴田の胸を不安が埋めつくす。
「俺が守るから」と言ってくれたのに、自分の傍から消えてしまうというのか。
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