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第35話
気付けば、時刻はお昼になろうとしていた。
ドッと疲れが出てくる。
『疲れたな……』
柴田が目を閉じた時、机のスマホから着信を知らせた。
それに気付いた柴田は、目を見開いた。
『光輝!』
欲しくて欲しくて仕方がなかった、愛しい相手からの電話だ。
柴田は咄嗟にスマホを手にした。
「もしもし……」
『龍二さん?』
「あぁ。今まで、どうしてたんだよ」
『ごめん、全然連絡できなくて……』
久々に聞いた彼の声に、柴田は涙が出そうになる。
自分自身も環境が変わったこともあり、これまでの張り詰めていた糸が切れそうになったのだ。
「元気だったのかよ......」
『うん、まぁまぁ。記事が出た後からゴタゴタが続いてて......事務所でもかなり怒られたんだ』
「やっぱり、そうだったのか」
薄々感じてはいたことだが、柴田の気持ちは重くなる。
『実は今、軟禁状態なんだ』
「は!?」
『軟禁っていうか、外出を制限されてるんだよね。仕事もどんどんとキャンセルになってる』
「何だって?」
自分は新たな職場を得ることができたが、光輝は仕事を失っているというのか。
光輝が先に自分を好きになったのだとはいえ、自分が彼に惚れなけばこうはならなかったのではないかと思ってしまう。
『スポンサーが厳しいらしくて、俺、NGになってるって。何か、干されてるっぽい、俺』
『どうしよう』と言いながら、光輝は乾いた笑いを漏らした。
「悪かった……...」
『え?』
「俺なんか相手にしたせいで……」
『そんなこと言わないでよ。……まさか、龍二さんは後悔してる?』
「いや…...…」
「俺は、龍二さんを好きになったこと一度も後悔してないから』
後悔しているとすれば、それは彼をこんな状況にしてしまったことだ。
『俺はさ、こんなことくらいで、気持ちは変わらないから』
「あぁ……分かってる」
『それで、龍二さんはどうしてるの?』
「離婚成立したよ」
『そっか……てことは、仕事は!?』
「引っ越しして、遠くのクリニックで再スタートしたよ。俺にはコレしかないからな」
『そうだったんだ……龍二さんも大変だったんだな』
心なしか、光輝の声が沈んだように聞こえた。
「そうでもないよ。でも、凄く声聞きたかったし、会いたかった……」
『事務所には別れろって言われてて……俺も同じだよ。でも当分会えそうにないんだ
』
「え……...」
『今後は連絡もしにくくなると思うんだ。でも、必ず龍二さんのところに戻るから』
「それはどういう......」
『待ってて。俺が堂々と龍二さんに会えるまで』
「あ、あぁ......」
思考がついていかず何となく返事をすると、『ごめん……大好きだよ』という言葉を残し電話は切れてしまった。
「光輝?光輝!」
必死に呼び掛けるが、スマホからはツーツーツーという音だけが聞こえていた。
もっと、声を荒げて引き止めれば良かったかもしれない。
しかし、放心状態の柴田にはどうすることもできなかった。
『一方的過ぎるだろ……』
柴田は頭を抱えた。昼だというのに、何かを食べる気がしない。
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