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第42話

「ねぇ、腹空かない?」 愛しい相手のぬくもりに浸っていると、光輝が呟いた。 「そうだな。何を買ってきてくれたんだ?」 「一緒に見よう」 光輝に促されて、二人でキッチンに足を向ける。 袋の中身を取り出すと、大きなチキンと豪華なサラダが入っていた。 またそれだけではなく、高級シャンパンが入っていたのだ。 デパ地下にでも行って買ってきたのだろうか。 「クリスマスっぽいな……」 品物を手に取り、柴田が呟く。 チキンは好物だし嬉しいが、クリスマスにこんな風に家でチキンを食べたことはほぼないかもしれない。 幼少期も含めてだ。 「うん。せっかくだしね。一緒に食べるでしょ?」 「もちろん。けど、ロゼとは奮発したな」 柴田は高級な酒のボトルを手にし、初めて見るそれをしげしげと観察した。 「俺もこの酒は初めてだけど、龍二さんと飲みたくて。奢りだよ」 「え!?いいのかよ」 流石に、光輝にこんな高級酒を奢ってもらうのは気が引ける。 「いいんだ。龍二さんを一年も待たせたお詫びだよ」 「じゃあ、一緒に飲もうか」 それから二人で食事の用意をして、食卓を囲んだ。 光輝が戻ってきた実感がまだ湧かないので、緊張してしまう。でも、この時間を楽しみたい。 「乾杯!」 二人でカチンとグラスを合わせられるのが嬉しくて仕方がない。 高価なシャンパンは味わいが繊細であり、それでいて刺激的な印象も受ける。 「やっぱり美味いな」 「うん」 光輝も一口飲んで頷いた。 こんなに値の張る逸品を購入するなんて、本当に大丈夫なのだろうかと心配になる。 「せっかくお前が買ってくれたんだから、丁寧に味わわなくちゃな」 「はは、そうだね。あ、チキンも食べようよ。専門店で買ったんだよ」 「うん。いただきます」 骨付きのもも肉に齧(かじ)り付くと、口の中に幸せな味が広がった。 これまでに食べたどのチキンよりも美味しいだろう。 こんなに味付けが上手なのは初めてだ。 「うまっ!」 思わず声に出すと、光輝も嬉しそうにチキンを頬張った。 「うん、美味しいね」 光輝も幸せそうに微笑んだ。 クリスマスの過ごし方としてはベタだとは思うが、最高に幸せだと柴田は感じた。 食べ終えた後、残りのシャンパンを持ってソファーに移動した。 「お前……連絡くらいくれたって良かっただろ?」 拗ねたように言うと、光輝は少し困ったような顔を見せた。 「ごめん……事務所を離れる前に、携帯を機種変更させられたんだ。しかも番号を変えて。だから、その前に龍二さんの番号はメモって控えてたんだけどさ」 「なら、連絡できるんじゃないのか?」 少しだけ責めるように言ったことを後悔する。 「あ、悪い……」 「ううん。もし連絡取ったり声聞いちゃったら、無性に会いたくなっちゃうと思ったから……我慢してたんだ」 「お前……」 柴田は待つ身だったが、『何て可愛いんだ』と思う。 「ほとぼりが冷めるまで、距離を置いた方が良いと思ってさ。俺なりに、龍二さんを守りたかった」 「そうか……でも、俺は寂しかったぞ」 「えー、龍二さんはその間に他の男と仲良くしてたんだろー?」 冗談半分な調子で言われ、柴田はムッとした。 「だから、俺はやましいことなんてしてないよ。目を見ろって」 心は光輝に向けられているという思いを込めて見詰めると、光輝の穏やかな表情が瞳に映った。 「余計な苦労をかけたくなくて離れたんだけど……こんなにも辛いとは思わなかったよ。ごめん」 光輝に優しく抱きしめられる。 そのぬくもりから、彼の気持ちが伝わってくるように感じる。 「お前、前に一度無言電話掛けてきただろ」 何となく尋ねると、光輝はバっと身体を離して柴田の両肩に手を置いた。 「な、何でわかったの!?」 その表情は、本当に驚いているようだ。 「やっぱりお前か。何となく、そんな気がしたんだよ。カンってヤツかな」 「そっか……。どうしても我慢できなくなっちゃって……隠してた龍二さんの番号のメモを出して掛けちゃったんだよ」 「……切ることないだろ?」 柴田がそう言うと、光輝は戸惑ったような顔を見せた。 「うん……でも、会いたくなったらヤバいと思って……。一年間は待とうと思ってたから」 柴田は今度は自分から光輝を抱きしめた。 こうまでして自分のために我慢してきた光輝を思うと、何だか申し訳なくなる。 「分かったよ……。もう、どこにも行くなよ?」 「行かない……今度こそ、龍二さんと生きていくよ……」 光輝の声は少し涙声のように感じられた。 「実は俺、今はホテルにいるんだ。まだ戻ってきて数日で、住むところも決まってなくて……住む家決まったら、教えるから」 「そうなのか……じゃあさ、この際お前もここに住むか?使ってない部屋あるし」 「え、いいの?」 「お前さえ良ければ。俺も……その……これまでの分も一緒にいたいし……」 つい、言葉の語尾が小さくなってしまう。 「それじゃ……甘えちゃおうかな」  「うん……」 これからの日々を思い描き、二人の幸せな夜は過ぎていった。   その夜はまだ光輝の家具が揃っていないため、柴田のベッドで一緒に寝た。 光輝は遠慮したのだが、柴田の方が望んだことだ。 セミダブルのベッドは多少狭く感じるが、光輝が隣にいる幸せは他には変えがたいものだと思う。   翌日、早速光輝が引っ越ししてきた。 しかしその荷物は大きなキャリーケース一つのみだった。 「お前、これだけかよ……」 あまりの少なさに柴田は驚愕する。 光輝のかつての家にだって、物が様々にあったからだ。 「うん。色々売ったりしちゃってさ、福岡で住み込みしてたんだ。そこでバイトもしてた」 そうせざるを得ない理由があったのだろうか。 彼がこの一年苦労をしてきたらしいことがうかがえた。 「大変だったんだな……」 「そんなことないよ。演技も磨けたし、ちょっとは自信がついたかな」 光輝は心からの笑顔を見せた。 一年ぶりに会った彼の美貌は変わりなく、顔を見ると慣れずにドキドキしてしまう。 「そ、それなら良いけど。この部屋を使ってくれ」 柴田は廊下の右側にある一つの部屋のドアを開けた。 そこは普段使用していない物を置いたりしていたのだが、急遽片付けたのだ。 いつかここで同棲できたら、光輝に使ってもらえたら良いと少なからず思ってもいた部屋でもある。 「広そうだし、良い部屋だね。ありがとう」 「必要なものは後で買いに行こう」 「うん」 これから始まる光輝との生活を考えると、柴田の胸は高鳴った。 しかし柴田には、しなければいけないことがあった。 それは、大学を目指す細谷に光輝が戻ってきたと告げることだ。 心苦しいが、ちゃんと話す必要があるのだ。 その日のうちに、柴田は細谷に電話をかけた。 『柴田さん?どうしましたか?』 「ごめんね、こんな時間に。今、話しても大丈夫?」 『はい。大丈夫ですよ』 「明日、ウチに来る日だけど、ちょっと話しがあるんだ」 『……分かりました』 細谷は少し訝しんだようだった。 「悪いね。いつもの時間に俺がそっちの近くに行くから、カフェで会おう」 『えぇ。じゃあ、三時に』 それから電話を切ったが、柴田には細谷は何かを察知しているように感じられた。

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