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第44話
「おかえりー」
帰宅すると、先に帰っていた光輝に出迎えられた。
「あぁ。ただいま」
何となく、光輝の顔を見るのが気まずい。
光輝は、そんな柴田の心境を察知したのだろうか。
「……何かあった?」
そう問われたが、細谷にキスをされたなんて言えるわけがない。
あのことは、一生秘密にしなくてはいけないだろう。
「ううん、何でもないよ」
柴田は努めて笑顔を見せた。
自室で着替えを済ませ、リビングに戻りソファに座ると、光輝も隣に腰掛ける。
「それで、お前の方はどうだったんだ?」
「うん。社長が俺を気に入ってくれてさ、所属させてもらえることになったよ」
「そっか。良かった……どうなったか俺も気になってたんだ」
「大きな事務所ってわけじゃないし、前みたいにはいかないとは思うけど、頑張るよ」
この一年の間に、様々なことがあったのだろう。
今の光輝が逞しく見えた。
何だか抱きしめたくなり、柴田の両腕は光輝の体を包んだ。
「お前なら、きっとまた前みたいに輝けるよ」
「ふふっ、そうかな……」
光輝の声からは嬉しさと気恥ずかしさが感じ取れた。
「あぁ。俺が選んだ男だからな」
そう言うと、光輝が柴田の腕を掴み、体を離した。
「そんなこと言われたら、たまんないね。龍二さんが欲しくなっちゃうだろ?」
次の瞬間には、二人の唇は重なっていた。
「いいよ。俺もしたい」
「え!本当?断られるかと思った」
「お前が望むならいいよ」
着替えをしたばかりだが、何となく柴田も光輝を欲しくなった。
どちらともなく唇を触れ合わせると、それはどんどんと深くなっていく。
自分には光輝がいる。
ただそれだけで良い。
そんな思いで、柴田は愛する男との時間に没頭した。
「龍二さん、今日は凄く積極的だったね。やっぱり何かあったんじゃないの?」
激しく求め合った後、光輝が柴田の髪を撫でながら問う。
「えー?まぁ、こういう時もあるだろ。何もないよ」
「そう?でも、今日の龍二さん良かったよ。俺を求めてくれて嬉しかった」
「俺は、お前のことをいつも欲しいよ」
柴田は隣で横になる光輝の頬に口づけた。
すると、彼が腕を回してきて抱きしめられる。
「そういやさ、もう過ぎたことだけど……」
「何?」
「一年前に俺たちのことをスクープしたの、俺をずっと追ってた記者だったんだ」
意外な告白を聞き、柴田は腕から逃れた。
「あー、そうだったのか……」
「俺も顔を知ってる人なんだけど、調査しててやっと分かったんだよ」
「お前、探してたのか......?」
会わずにいた間、福岡に行っていたというが、そんな中でも書いた記者を探していたというのか。
「うん。前の事務所にも協力してもらって、ツテも使って探したよ。簡単に見つかるかと思ったんだけど、案外時間かかっちゃった。出版社のガードが固くてさ」
「まぁ、そういう情報は流さないだろうからな。でっも、社長が手伝ってくれたのか?」
「うん。まぁ、社長には記事出てかなり怒られたんだけど、本当は優しい人なんだ。『お前はウチにとって逸材だ。本当は手放すのは惜しい』って言ってくれたよ。でも、あの時は解雇するしかなかったって」
「そうか......」
「実は、こっちに戻ってこられたのも社長のおかげなんだ」
「え、そうなのか?」
前事務所の社長が動いてくれたおかげで、光輝は現在の事務所に入ることができたのだという。
今の事務所は前の事務所の傘下であり、いずれは前の事務所に復帰させる用意があると言われてもいるのだ。
「それは良かったな。また前みたいに活躍できるかもしれないぞ」
「だといいけど」
光輝は照れながらも苦笑した。
「大丈夫だろ。お前ならな」
「そうかな。まぁ、龍二さんがいれば頑張れるかも」
微笑むと、光輝は柴田の唇にキスをする。
「例の記者にはもう俺に関わるなって話つけたし、あれから一年経ってるから多分もう騒がれることはないと思うよ」
「騒がれるのは真っ平だからなぁ......」
柴田は、光輝との平穏な日々を今度こそ手に入れたいと心から願った。
この先何が起きるか分からないが、光輝の手だけは離したくない。
「俺もだよ」
二人は微睡みの中へと落ちていった。
それから一年半後の春、柴田は光輝と穏やかな日々を送っていた。
変わったことと言えば、光輝がCMやドラマに起用されるようになったことだろう。
仕事が順調になってきているため、一緒にいられる時間は多くない。
そんなある日の午後十一時過ぎに、ドラマの撮影を終えた光輝が帰って来た。
「おかえり。今日も遅かったな」
「うん。日付け変わる前に帰れたけどね。凄く疲れたよ」
「お疲れ様。ゆっくり休めよ」
「ありがとう。それでさ、伝えたいことがあるんだ」
勢いのままに、光輝は柴田の座るソファーの隣に腰を下ろした。
「何なんだ?伝えたいことって」
「来月から撮影に入る映画がさ、海外ロケがあるらしいんだ」
「え、海外?凄いな。どこで撮影するんだ?」
光輝は以前に海外ロケなどには行ったことがないから、話を聞いて柴田のテンションも上がった。
「イタリアだって。ナポリで撮影するらしいよ」
「へぇ、いいな。俺も行ってみたいところだ。どんな内容なんだ?その映画」
実はまだ一度も海外に行ったことがない柴田は、海外に行くならイタリアと決めていた。
そして密かに、ナポリのピザが食べたいという夢もある。
「あー、それはナイショ。まだ言っちゃダメなんだよね」
「そか。で、いつから行くんだ?」
「五月二十日に出発だって。俺も海外なんて初めてだから緊張するよ」
「大丈夫だよ。楽しんでこい」
そう言って光輝の頭を優しく撫でた。
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