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第45話

それから、慌ただしい日々が過ぎあっという間に光輝がイタリアに経つ日が来た。 正直、光輝がいない期間は淋しいだろう。 けれど、二週間で帰ってくるし心が繋がっているなら平気だ。 「じゃ、浮気しないで少し待っててね」 「するかよ。お前こそ、現地のチャラい男に捕まるなよ?」 冗談半分で言うと、光輝の顔が近付き唇が触れた。 「安心して。俺は仕事で行くだけだし、第一イタリア語話せないし」 そう言って光輝は笑った。 「まぁ、確かにそうだな」 「うん。じゃ、行ってくるよ」 「あぁ。頑張ってこい」   愛してる」と言い残して、光輝はイタリアへと旅立った。 光輝のいない期間は、あっという間に過ぎていった。 彼から連絡がないのは淋しかったが、帰って来る日を心待ちにしていた。 光輝の帰国する日、本当は空港まで迎えに行きたいところだったが、共演者やスタッフも一緒かと思い家で待つことにした。 二週間会わなかっただけでも、帰ってくるとなるとソワソワしてしまう。 こんな風に誰かを待てるのは幸せだと思う。 そして夜の十時過ぎに玄関のドアが開く音が聞こえた。 柴田は逸る気持ちを抑えながらも玄関へと急いだ。 玄関には大きなスーツケースを携えた光輝が立っていた。 「ただいま」と言って微笑む光輝を見つけると、すぐに近寄り飛び掛からんばかりに抱き付いた。 「うわっ」 不意に抱き付かれた衝動で、光輝はよろめいてしまう。 それでも、柴田の背中に腕を回し抱き返してくれた。 「お帰り……」 「熱烈な歓迎だね、嬉しいけど。待った?」 「あぁ……凄く待ったよ……」 「俺も早く会いたかったよ」 二週間ぶりのキスは柴田を幸せへと誘ってくれる。 たった二週間会わなかっただけなのに、光輝なしでは生きられないようだ。 「疲れただろ。中で休め」 「うん」 頷いた光輝の表情も幸せそうだった。 「実は、龍二さんにお土産があるんだ」 持ち帰ったスーツケースを開けながら光輝が言う。 「お土産?」  「うん」 そう言ってケースから取り出した袋を「はい」と言って渡された。 「何だ?開けていい?」 光輝が「もちろん」と言うので袋を開けて中身を取り出すと、何だか唐辛子のような形の赤い物体が入っていた。 「トウ……ガラシ……?」 柴田は、光輝がなぜこういったものをくれたのだろうか。 「それはコルノって言ってさ、幸運を呼ぶ魔除けなんだって」 「魔除け?」 コルノと呼ばれる赤い物体を手にしながらしげしげと見つめる。 「うん。しかも……男性器のシンボルが起源らしい……」 「え……何だそれ……」 「でも今はラッキーアイテムだから、お土産にいいんだってよ?」 「誰かに贈られることで効果が出るらしいんだ。龍二さんに幸せでいて欲しいから買ってきたんだよ」 「そうか……ありがとう。大事にするよ」 このアイテムを買ってきた恋人の思いに触れて、柴田の胸は甘く高鳴った。 「ねぇ。俺帰ってきたばっかりだけどさ、今度一緒にイタリア行こうよ」 「え、プライベートで?」 「うん、もちろん!龍二さんも行きたいって言ってたでしょ?」 「まぁ、そうだけど……」 確かに行ってみたいが、何せ海外は未経験だから不安もある。 「俺も一緒だし、大丈夫だよ。これまで二人で旅行したことなかったし、ね?行こう?」 可愛くそう言われ、柴田はコクリと頷いていた。 「でも俺、イタリア語話せないしなぁ……あ、英語くらい覚えていくか」 「え、龍二さんが?」 「あぁ。俺は勤務が不規則なわけじゃないしな。時間見つけて旅行で使える言葉くらい覚えるよ」 「ありがとう。それじゃ、準備して来年あたりに行こう」 「そうだな」 柴田の心の中はワクワクしていた。 そして一年が過ぎ、初夏の頃に二人はイタリアへとやってきた。 到着した昼過ぎは暖かかった。 「うわ……凄く緊張する……」 「えー、着いて早々どうしたの?らしくないね」 「イタリアに来たかったのは本当だけどさ、マフィアとかいるのかなとか思って……」 そう言って柴田がカチカチに固まっていると、光輝は爆笑した。 「何を言うかと思ったら。貴重品とか気を付けていれば大丈夫だよ」 「そうか?イメージ先行し過ぎたかな」 柴田がバツが悪そうに頬を掻くと、まだ光輝は笑っている。 「そうだよ。ね、観光を楽しもうよ」 「そうだな」 せっかくイタリアの地まで来たのに、心配してばかりではつまらないだろう。 柴田は自分の心を落ち着けた。 それから二人は、柴田が行きたいと願っていたナポリのカプリ島にやってきた。 イタリアのなかでも屈指の観光地だ。 土産物屋を覗くと、様々なレモン関連の商品が売られていて柴田はその一つを手に取った。 「何でこんなにレモン製品を売ってるんだ?」  目を丸くする柴田に、光輝が優しく教えてくれる。 「何か、カプリ島ってレモンの一大産地らしいよ。リキュールもあるみたい」 「へぇ。じゃあ、買っていくか?」 柴田が提案すると、光輝は「うん」と微笑んだ。 続いて二人は、カプリ島にある青の洞窟を訪れた。 青の洞窟は人気の観光スポットとなっていて、天候や波の高さ次第で上手く見られる絶景となっている。 「何か運が要るらしいけど、今日見られるかな」 青の洞窟へと向かうボートの上で、柴田は心配になってしまう。 「天気良いし、大丈夫だよ。龍二さん持ってる人だし」 柴田が持っているかどうかはさておき、光輝は随分とたくましくなったような気がする。 自分もしっかりしなければいけないと思うが、光輝の変化は頼もしい限りだ。 ついに青の洞窟に到着すると、そこには何とも神秘的な空間が広がっていた。 洞窟のなかにわずかに太陽光が届き、洞窟内の水面を青く輝かせているのだ。 「お前とここに来れて良かったよ。もう思い残すことはないかもな」 「やだなぁ。変なこと言わないでよ。俺と来れて良かったって言ってくれたのは嬉しいけどさ」 「それほどに感動したってことだよ」 柴田は密かに光輝の手を握った。 ナポリの街に戻り二人で歩いていると、土産物屋の店頭に見覚えのある物体が山盛りになり売られているのに目がいった。 唐辛子のような魔除け、コルノだ。 「あっ!」 思わず柴田は光輝を土産物屋へと連れていった。 「どうしたの?」 戸惑う光輝に、「これ」と柴田は指を指した。 「ちょっと待ってて」 そう告げると、柴田はコルノを一つ手に取り店のなかに入っていった。 コルノを購入し光輝のところに戻ると、柴田は品の入った袋を彼に手渡した。 「え、俺に?」 目を丸くする光輝に、袋を開けるように促す。 「あ......コルノ......」 「人から贈られると効果があるんだろ?だから俺もお前に贈るよ」 柴田としては、二人の共通するお揃いのアイテムができたことが嬉しい。 「ありがとう......」 次の瞬間、柴田は光輝の腕の中に包まれていた。

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