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(二)ジェンガ族の少年ミンジャの回想
意識を取り戻したミンジャは、自分が奇妙な体勢を取らされていることに気付いた。両手を掲げた膝立ち。体勢を変えようにも、手首と太腿が何かで床に固定されているらしくびくともしない。
ここが何処かはわからないが、外の音や人の声がまるでしてこないところから、屋内であるのは間違いないようだ。
ミンジャの視界は相変わらず暗いままだった。
しっかりと布で目隠しをされているようで、首を振っても外れない。ミンジャの心は不安と恐怖に覆われた。怖い。しかも何かが乳首を包み込んで蠢いている。それが恐らく舌であるとミンジャが気付けたのは、幼き日々にそういった経験があったからだ。
実の父親だった。
七歳を数えた次の日から、ミンジャの父親はミンジャの寝所に忍んで来るようになった。母親が眠っているのを確認しては、一緒に寝よう、ミンジャ。そう云って、身体のあちこちに触れてくる。最初は親子のスキンシップだと思っていたミンジャだったが、父親が舌を使い出すようになると、おかしいと感じずにいられなくなった。
乳首に性器は勿論のこと、アナルにまで舌を這わせたり吸ったりしてきては、ミンジャの反応を確認してくる。どうだい、ミンジャ。気持ちがいいかい? ミンジャはそれに答えなかった。ただ声を殺して父親の愛撫が止むのを待った。
何せ、隣には母親が寝ている状況だ。迂闊に声を上げたり物音を立てたりしようものなら、母親が起きてきかねない。優しいミンジャの母親のことだ。ミンジャに対して父親がこういった行為に及んでいると知ったら、心を壊してしまうのではないか。母を想うミンジャは、だからこそ必死に耐えた。
最初は嫌悪感の強かったミンジャだが、繰り返されるうちに快感を覚えるようになった。
何故、どうしてと思っても快感は止まらない。それが父親を調子付かせたようだった。ああ、ミンジャ。お前は可愛い子だね。そんなことを口にしながら、ミンジャの股に自らの男性器を挟み込ませてくる。そして片手でミンジャの未熟な性器を扱きながら腰を振るのだ。ああ、ミンジャ。イクよ。達する瞬間が近くなると、父親はミンジャに亀頭を握らせた。そしてミンジャの手のひらに精液を放った。
黄ばんだ精液をミンジャは幾度口で始末させられただろう。
そんなミンジャと父親の関係が終わったのは、ミンジャが九歳の秋のことだった。狩りに出かけた先で父親が獣に殺されたのだ。ミンジャは不思議な気持ちに捉われた。これで終わるという安堵感もあれば、その先に何が待ち受けているのかを知りたかったという落胆もあった。勿論、父親を失ってしまったという悲しみもあったし、ようやくいなくなってくれたという清々しさもあった。
いずれにせよ、父親の死はミンジャの人生に大きな影を落とした。
感情がないまぜになったミンジャは暫く荒れた。
家に篭っては物に八つ当たりを続けるミンジャに、母親は父親がいなくなって寂しいからだと考えたようだ。三か月後に新たな父親となる男性と付き合い始めた彼女は、六か月後に再婚した。
新しい父親はミンジャをとても大事にしてくれた。無論、寝所に忍んでくるようなこともない。
枕を高くして眠れるようになったミンジャは、ようやく落ち着きを取り戻した。もう実の父親はいない。新しい父親が家にきたことで、ミンジャはようやく父の死を認められたのだ。
そこから部族で成人と認められる十五になるまで、ミンジャの生活は波風立たない平穏なものだった。だからミンジャは過去を忘れた。実の父親との関係は悪夢であった。そう思い込むことで、全てを水に流そうと考えたのだ。
それなのに。
十六になったミンジャを襲った奇禍は、ミンジャを大いに混乱させた。自分は何処にいるのか。そして、誰に抱かれているのか。わからないからこそ、恐怖心に囚われる。もしかすると、今、自分を抱いているのは父親の亡霊であるかも知れない。そういった妄想に支配されるまでにミンジャは混乱していた。
だのに、股間を熱くする快感。
止め処なく身体を満たしにかかってくる悦楽に、ミンジャは昔のようにただ耐えるしかなかった。
視界を奪われた今のミンジャの世界では、乳首に感じる舌のぬくみだけが全てだ。ああ、嫌です。止めてください。ミンジャは誰とも知れない相手に懇願した。気持ち良くて仕方がないのに、快感に溺れるのを良しと出来ない自分。脳裏に過ぎる幾多もの夜がミンジャを臆病にする。
ふと、肌に触れる空気が動いた。誰とも知れない誰かが、ミンジャの股間に手を伸ばしてくる。
それはまるでミンジャに何を云っているんだと云いたげな動作であった。それもその筈。ミンジャの性器は既に硬く張っていた。それどころか濡れそぼってさえいるではないか。
無言でミンジャの性器を弄ぶ誰かは、ミンジャの性器が乳首への愛撫に反応して勃起したのを知っていたのだ。
ミンジャは恥ずかしさに消え入りそうになりながら、誰かからの愛撫を受けた。
どうやら誰かは乳首を愛撫するのが好みらしい。卑猥な音を立てながら、しつこく口唇で吸い上げてくる。あっ、あっ。次第に追い詰められてゆく身体にミンジャは喘いだ。そしてまた、止めてください。と、懇願した。云った先から洩れ出る喘ぎ声。ああ、嫌だ。怖い。そう思っているのに、過去の呪縛はミンジャの身体を自由にはしてくれない。
――やだ……イク。止めて、お願い。いっちゃう、俺、いっちゃう……
ミンジャは腰を振った。
誰とも知れない相手に乳首を吸われながら性器を扱かれている。わかっているのに、絶頂 を求める気持ちを止められない。ああ、イク。イっちゃう。ミンジャは細く高い声を上げながら、誰かの手に性器を擦り付けた。そして、達した。
――あっ、はぁ……はぁ……
射精後の倦怠感に身体の力が抜けると、ちゅぽん、と、音を立てて乳首から口唇が剥がれた。いい子だね、名前は? どうやら相手は男性であったようだ。ミンジャの耳元に低い声で囁きかけてくる。
「……ミンジャ、です」
それが面白かったのだろう。くすくすと笑った男が、「上手にイケたご褒美だよ」と、口唇を重ねてくる。そして、舌先でミンジャの口唇を割ると舌を挿し入れてきた。
深く重なり合っている彼の口唇は、とても柔らかい。その、丁寧な彼の口付けにミンジャは溺れた。
ミンジャの父親は、荒々しくミンジャの口唇を塞いでくるのが常だった。逞しい身体でミンジャの身体を押さえつけて、身動きままならなうようにしてから口付けてくる。そういった父親とのキスがミンジャは好きではなかった。もっと優しく自分を扱って欲しい。そう願っていたミンジャは、だから自分を優しく扱ってくれる男に身を委ねた。委ねて、積極的にその舌を吸った。
小さな音を立てながら、口唇が重ね合う。煙草を吸う男であるのだろう。甘ったるくも煙たい味はどこか懐かしい。
「ああ、何ていい子なのだろうね、君は。どら、食事を持ってきてあげよう。待っていたまえ」
その言葉を最後に男の気配が消える。
ミンジャは村の住人たちを思い返した。似たような声の持ち主がいなかったか、脳内の記憶と照らし合わせてゆく。けれども、優しい声で自分に語りかけてくる男が誰であるかは、ミンジャにはわからなかった。
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