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1章-2

2 「……これが、僕の知っている物語。ジプシーの女性と亜人種の紳士、そして、そのこどものその後は知らない」  望月は、息をつくと物語を終えた。 「……すてき」  ■■■■は、ほうっとため息をついた。 「まるで、童話のようだわ。でも、胸が痛い」  望月は、驚いた。  ■■■■が、眦に涙を浮かべていたからだ。 「だって、好きな人と離れ離れになるなんて……わたしには耐えられない!」 「家族って温かいものでしょう? それが、ばらばらになるなんて……」  ■■■■の言葉は、ほとんど、叫びのようだった。  このお淑やかな少女が、感情を叩きつけるのを初めて見た。  望月は、夢の中の紳士のようにやさしく微笑んだ。 「これは、夢の中のお話なんだよ。もしかしたら、この後、ハッピーエンドがあるかもしれない。なんだっけ……ほら、あのティンブクツー? まで女性が辿りついたらさ」  望月は、夢の中で交わされたティンブクツーという言葉の意味を知らない。  だが、会話の内容から何らかの目的地であることは察せられる。 「目的を達成して、ジプシーの女性が、成長した赤ちゃんに会いたがるかもしれない。その後は家族で仲良くくらしたのかも」  ■■■■は、すん、と小さな鼻を啜った。 「ほんとうに、もちはやさしいね」  それから、おずおずと言った。 「もちのそばに行ってもいい?」 「もちろんだよ」  元々、少女は体温が低かったが、今は凍えそうなほどに冷たい。  一体、どうしたというのだろう。  望月は、逡巡したが、その肩が震えていたので、そっと抱き寄せた。  しかし、■■■■の表情は、曇ったままだ。  ややあって、か細い声で■■■■は、望月に訴えた。 「……嵐が来るの」 「嵐?」 「そう、ジプシーとうさぎの紳士の物語に出てきたような嵐が来る」  いささか、■■■■の言葉は突飛に思えた。  望月は、つい放心してしまった。 「そうなの? でも、ここ数十年、太古の森に激しい嵐は来たことはないよ。あの夢のような十日にも渡る大嵐なんて」 「いいえ、来る。絶対に来るわ」 「……だとしたら、その嵐はいつ来るの?」 「……今晩。これはもう決まっているの」  ■■■■の小さな顔は色を失い、予言者のように厳かに告げた。 「……やっぱり、そんなはずはないよ。■■■■ってば、怖いこと言わないでよ」  望月は、彼女を安心させようと努めて軽い調子で笑い飛ばすが――。  そのとき、アネモネの花々が不吉に揺れた。 「お願い。もち、わたしをひとりにしないで……」  祈るように、少女がそう懇願する。  アネモネの花畑でふたりは抱き合っていた。    そして、その夜――彼女が、言ったとおり、嵐がやってきた。  あの夢のような――数十年ぶりに――太古の森に訪れた暴力的な夏の嵐だった。    

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