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1章-3

3  コロニーに戻ると雨に乗じて、煙った臭いがした。  簡易的な小屋のあちらこちらから火の手があがっている。  パチパチという火の爆ぜる音。 (どうして、こんなに静かなんだろう。こんなの、まるで――)  コロニーには、誰の姿も見当たらなかった。 (僕、またひとりぼっちになっちゃったの?)  まだ、赤子の頃にコロニーに捨て置かれたときの記憶はない。  だが、そんな孤児の望月を育ててくれたのは、コロニーの大人たちだった。 (長老に、いつもおいしいご飯をつくってくれたおばさん、やさしくしてくれたお兄さんにお姉さん……そして、朔七……かわいい子だった)  望月は、涙を堪えて、ぐっと歯を食いしばった。 「長老! 朔七、みんな――」  望月は、一歩踏み出した。  ずるっと何かに足元をとられて、滑った。  最初は、泥濘かと思った。  しかし、それは――鮮烈な赤色をしていた。 「ひっ!?」  口から悲鳴があがる。  ぬらぬらとした赤の水たまり。  それが、足元に広がっていた。  よく見たら、あちらこちらにある。  建物に、煤がついていた。  煤に見えたそれは、亜人種の影を模った形をしている。  誰かが、その場で消し炭にされたような。  雨と焔の臭いに混ざって、何か嫌な臭いがする。  錆臭くて濃厚な、噎せ返るような汚臭。 「うぐぅぅ……っ」  望月は、お腹を抱えて蹲った。  酸っぱいものがこみ上げ、げえげえと戻してしまう。 「うそだ、うそだぁ……!」  悲鳴に似た叫びが迸る。  血と泥、吐しゃ物にまみれながら、望月は、頭を抱える。 「僕が、長老の言いつけを破ってコロニーを出たから……?」 ――だから、その間にコロニーは敵襲にあったというのか。  容赦なく打ちつける雨音。  望月の身体はガクガクと震えていた。 「……諦めちゃだめだ……まだ、誰かいるかもしれない……」  望月は、汚れきった姿で何とか、立ちあがるとコロニーの奥に向かった。    その光景を見たとき、望月は地獄だと思った。  コロニーの奥に位置する住居部には――無数の同族の死体が転がっていた。  死臭と血の臭い。  知った顔もいた。  みんな、恐怖に凍りついた顔で止まっていた。  その中には朔七もいた。  朔七は、小さい腕をだらりと垂らして。  よほど、死の間際が恐ろしく、苦しかったに違えない。  だが、その顔にあったのは、どうしてといったような苦悶の問いだ。  望月が昼間にあげたおやつの袋を大切そうにきゅっと握っていた。 「……みんな」  望月は、言葉を失う。  ぽろぽろと落涙しながら、苦しそうな顔で息絶えた朔七の目を閉じてやる。 「ごめんなさいっ、ごめんさいっ!」  最早、生きる者は望月しかいない。  同胞の死体に囲まれながら、望月は、謝罪をした。 「僕が、コロニーのルールを犯したからっ! 僕がコロニーの外に出てしまったからっ! きっと、敵にコロニーの場所が……ごめんなさいっ、ごめんなさいいっ……!」  望月の慟哭が、響く。  いつの間にか、嵐は止み――痩せた青白い月が浮かんでいた。  そのとき、背後からねちゃり、と泥を踏みしめる音がした。  

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