7 / 9
1章-3
3
コロニーに戻ると雨に乗じて、煙った臭いがした。
簡易的な小屋のあちらこちらから火の手があがっている。
パチパチという火の爆ぜる音。
(どうして、こんなに静かなんだろう。こんなの、まるで――)
コロニーには、誰の姿も見当たらなかった。
(僕、またひとりぼっちになっちゃったの?)
まだ、赤子の頃にコロニーに捨て置かれたときの記憶はない。
だが、そんな孤児の望月を育ててくれたのは、コロニーの大人たちだった。
(長老に、いつもおいしいご飯をつくってくれたおばさん、やさしくしてくれたお兄さんにお姉さん……そして、朔七……かわいい子だった)
望月は、涙を堪えて、ぐっと歯を食いしばった。
「長老! 朔七、みんな――」
望月は、一歩踏み出した。
ずるっと何かに足元をとられて、滑った。
最初は、泥濘かと思った。
しかし、それは――鮮烈な赤色をしていた。
「ひっ!?」
口から悲鳴があがる。
ぬらぬらとした赤の水たまり。
それが、足元に広がっていた。
よく見たら、あちらこちらにある。
建物に、煤がついていた。
煤に見えたそれは、亜人種の影を模った形をしている。
誰かが、その場で消し炭にされたような。
雨と焔の臭いに混ざって、何か嫌な臭いがする。
錆臭くて濃厚な、噎せ返るような汚臭。
「うぐぅぅ……っ」
望月は、お腹を抱えて蹲った。
酸っぱいものがこみ上げ、げえげえと戻してしまう。
「うそだ、うそだぁ……!」
悲鳴に似た叫びが迸る。
血と泥、吐しゃ物にまみれながら、望月は、頭を抱える。
「僕が、長老の言いつけを破ってコロニーを出たから……?」
――だから、その間にコロニーは敵襲にあったというのか。
容赦なく打ちつける雨音。
望月の身体はガクガクと震えていた。
「……諦めちゃだめだ……まだ、誰かいるかもしれない……」
望月は、汚れきった姿で何とか、立ちあがるとコロニーの奥に向かった。
その光景を見たとき、望月は地獄だと思った。
コロニーの奥に位置する住居部には――無数の同族の死体が転がっていた。
死臭と血の臭い。
知った顔もいた。
みんな、恐怖に凍りついた顔で止まっていた。
その中には朔七もいた。
朔七は、小さい腕をだらりと垂らして。
よほど、死の間際が恐ろしく、苦しかったに違えない。
だが、その顔にあったのは、どうしてといったような苦悶の問いだ。
望月が昼間にあげたおやつの袋を大切そうにきゅっと握っていた。
「……みんな」
望月は、言葉を失う。
ぽろぽろと落涙しながら、苦しそうな顔で息絶えた朔七の目を閉じてやる。
「ごめんなさいっ、ごめんさいっ!」
最早、生きる者は望月しかいない。
同胞の死体に囲まれながら、望月は、謝罪をした。
「僕が、コロニーのルールを犯したからっ! 僕がコロニーの外に出てしまったからっ! きっと、敵にコロニーの場所が……ごめんなさいっ、ごめんなさいいっ……!」
望月の慟哭が、響く。
いつの間にか、嵐は止み――痩せた青白い月が浮かんでいた。
そのとき、背後からねちゃり、と泥を踏みしめる音がした。
ともだちにシェアしよう!

