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2章

2章 「外の世界なのに――ここから見える月はくすんで見えるな……」  ある日、望月は、窓辺から満月を眺めていた。  椅子を持ってきて、高い位置の窓から外の景色を覗く。  夜の“市街地“の景色が一望できた。  市街地は、巨大なスラムであり、さながら、コンクリートの迷宮だ。  行き場を失った亜人種が流れ着く最後の場所。  文明崩壊前の人類の住居の名残。  かつては、人口が増え、巨大な住宅施設が急務として必要とされた時代があったらしい。  朽ちた巨大なマンション群。  ひび割れた灰色のコンクリートに緑が生い茂り、蔦が絡まっている。  郁が暮らす廃墟は、本人の性格同様、他者を受け付けぬように――。  幾重もの廃墟の迷宮の奥にひっそりと存在していた。 「郁か」  未だに彼のことは解せない。  望月は、郁から軟禁に近い状態で囚われていた。  当然、外出など許されない。  その癖、衣食住の管理は徹底されていた。  高価な花の蜜や林檎、時には、不格好なケーキを買ってくることもある。  上等な毛布を用意する。それに、櫛の贈り物。望月には難解な分厚い本をよこす。 「僕のことをペットか、なにかだと思ってない? ま、いいけど」  なんにせよ、本人の語り草と相反するように、望月は、丁重に扱われていた。  つくづく、あの狼の真意とやらが分からない。  望月は、ひょこっとまた窓を覗き込んだ。  終末世界の摩天楼が、見えるだけだ。 (今晩も郁の帰りが遅い……)  時折、郁は、ふらりといなくなり、家を空けることがあった。 (外から、南京錠で施錠をしているようなので脱出は不可能だった) 「郁は仇なんだ……気にかけることはない……」  望月は、そろそろとベッドに戻った。  また、眠りの波が静かに押し寄せて来た。  “また、あの日の夢を見るのだろう“  あの夏の嵐の晩の出来事は、繰り返し、望月の夢の中で反芻されていた。

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