11 / 93
2章
2章
「外の世界なのに――ここから見える月はくすんで見えるな……」
ある日、望月は、窓辺から満月を眺めていた。
椅子を持ってきて、高い位置の窓から外の景色を覗く。
夜の“市街地“の景色が一望できた。
市街地は、巨大なスラムであり、さながら、コンクリートの迷宮だ。
行き場を失った亜人種が流れ着く最後の場所。
文明崩壊前の人類の住居の名残。
かつては、人口が増え、巨大な住宅施設が急務として必要とされた時代があったらしい。
朽ちた巨大なマンション群。
ひび割れた灰色のコンクリートに緑が生い茂り、蔦が絡まっている。
郁が暮らす廃墟は、本人の性格同様、他者を受け付けぬように――。
幾重もの廃墟の迷宮の奥にひっそりと存在していた。
「郁か」
未だに彼のことは解せない。
望月は、郁から軟禁に近い状態で囚われていた。
当然、外出など許されない。
その癖、衣食住の管理は徹底されていた。
高価な花の蜜や林檎、時には、不格好なケーキを買ってくることもある。
上等な毛布を用意する。それに、櫛の贈り物。望月には難解な分厚い本をよこす。
「僕のことをペットか、なにかだと思ってない? ま、いいけど」
なんにせよ、本人の語り草と相反するように、望月は、丁重に扱われていた。
つくづく、あの狼の真意とやらが分からない。
望月は、ひょこっとまた窓を覗き込んだ。
終末世界の摩天楼が、見えるだけだ。
(今晩も郁の帰りが遅い……)
時折、郁は、ふらりといなくなり、家を空けることがあった。
(外から、南京錠で施錠をしているようなので脱出は不可能だった)
「郁は仇なんだ……気にかけることはない……」
望月は、そろそろとベッドに戻った。
また、眠りの波が静かに押し寄せて来た。
“また、あの日の夢を見るのだろう“
あの夏の嵐の晩の出来事は、繰り返し、望月の夢の中で反芻されていた。
ともだちにシェアしよう!

