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2章-2

「俺から離れるな」  市街地の中心部に入る際に、郁は一言だけそう告げた。 ――行き場を失った亜人種たちが形成したスラム。  安っぽい露店がつらなり、亜人種の少年がオスを誘っていた。  なんだか、埃っぽい臭いがする。 「ねえ、郁」 「余計な口を利くな。目立たないようにしろ」と郁は、すげない。  黙々と猥雑な街をすすむ。  すると、市場の角で――。 「やあやあ、そこのお兄さん!」  同じように外套を被った何者かが、急に、望月の前に立ちふさがった。 「わ! な、なに……?」  その人物――まだ、年端のいかない少年のようだ――は、望月の手に、手描きとおぼしき、ポスターを渡した。  郁が、にわかに殺気だつ。 「お兄さんは、魔王信仰に興味はありませんかねえ! ぜひ、魔王様の復活を願い、ともに、魔王信仰を布教しようではありませんか、きゃふ!」  郁が、見ていられないというに、少年を押しのけた。 「魔王信仰に、興味はない。急いでいる。失せろ」 「わあ、そっちのお兄さん、すごいきれいだなあ。いい広告塔になりそうだなあ!」 「興味がないと言ったのが聞こえないのか。行くぞ、望月」  郁は、あの手この手で勧誘してくる少年を完全に存在しないものとみなし、先を歩いている。  望月が、振り返ると、先ほどの少年はめげずに、別の亜人種に声をかけていた。  今度は、空き缶を投げつけられていたが、へらへらとしている。 「……ねえ、郁、魔王信仰って何?」 「宗教の一派。もう信じている者は少ないが、魔王様が再び、この世界に降臨するように、世界が正しい方に導かれることを望むのが教えだったかな」 「……信じてもこの世界は、崩壊に向かっていくのに……」  小さく郁が呟いた。 「郁……?」 「目的地はまだ先だ。市街地を抜けよう。治安が良くないから、さっさと通り抜けたい」 「ああ、うん」  望月は、郁の言葉に頷きつつ、もう一度だけ振り返った。  人類の栄華と退廃の文明のコンクリートの迷宮。  怪しげな物売りに、男娼。  そして、魔王信仰を唱える少年。  この世界は、望月が思っている以上にけったいな場所なのかもしれない。  望月はそう思い至り、郁の背中を追いかけた。

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