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3章
郁が、望月を連れたのは、小さな丸太小屋だった。
「ここって、誰かの家?」
「ああ」
なぜか、郁が苦虫をかみつぶしたような顔をする。
この狼もこんな顔をするのか、と意外に思う。
「ああ、童たち。ずいぶんと寄り道をしていたようじゃなあ。3分5秒、遅かったな、くく」
いきなり、小屋の扉が開き、ひょいっと女が顔を出した。
「に、人間……!?」
望月は、驚いて、声をあげた。
太古の森に住居をかまえる人間など聞いたこともなかったからだ。
「汝には、わらわがそう見えるのかえ?」
ずいぶんと奇妙な話し方をする女だ。
望月よりも数センチほど、身長の高い女は、じっと覗き込んだ。
長い睫毛にふちどられた金色の猫目。
薄紫の長髪が腰のあたりでふんわりと広がっている。
なにより――。
(女の人ってこんな……に……)
大きく胸元が開いたドレスから、白い豊満が覗いていた。
「……お前、何か羽織れ」
隣で顔を赤くしている望月に呆れながら、郁が女に言う。
「黒い童が、他人を庇うとはなー……珍しいこともあるのう。こっちの童は、白いから、さしずめ、白い童といったところか、くくくっ!」
郁が、その言葉にとても嫌そうな顔をした。
どうやら、彼はこの女が苦手らしい。
古めかしい言葉で、煙に巻くような言い方をするので、確かに怖いといえば怖い、と望月は思う。
「汝ら、わざわざ、わらわを尋ねてきたのだろう? 改めて用件を聞かせてもらおう」
「……もう予知していたんだな」
「さて、黒い童、わらわがどこからどこまで知っていると思う?」
「え……っ」
思わず、望月は声をあげてしまう。
昨夜も辛抱ができなくて、郁を抱いた。
毎日のように身体を重ねているので、だんだんと要領が分かってきたし、この狼の身体は飽きない。
行為の最中は、いつもとは別人のようにこの狼を虐めてしまう――。
そこまで、思い出して、望月の頬が熱を持った。
「その、僕と郁はそういう関係じゃあ……っ」
すかさず、隣から冷たい視線が飛んでくる。
望月は、ぴゃっと身体を竦めた。
「……ほんっとう、さいあく」
郁が小さな声で毒づいた。
くっくっと女が笑う。
……明らかにこのリアクションは全てお見通しだろう。
望月は、怖じた。
「わらわは、森の魔女。みなからそう呼ばれている。童たち、よく来た。さあ、中に入るがいい」
「え、あの……」
「なあに、とって食ったりはしない」
「あまり、こいつをからかうな。望月、中に」
「黒い童は、愛想という言葉を知らないのか? 紅茶と菓子を用意しよう」
言わずもがな、この時代において、紅茶と菓子は高級な嗜好品だ。
「あ、ありがとうございます……そのぅ、お邪魔します……」
(森の魔女さんだっけ……この人、何者なんだろう)
すっかり、いつもの不愛想な顔に戻った郁に、続いて小屋の中に入る。
パタン、と余韻を残して扉が閉まった。
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