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3章-1

1 「さぁさ、こどもたち、遠慮せずに食べるがいい」 「わあ……!」  望月は、テーブルに並べられた菓子を見て、目を輝かせた。  艶々とした大粒の苺のタルトだ。  表面がナパージュできらきらと光っていて、まるで宝石のよう。 「白い童、食べないのかえ? 菓子は眺めるものじゃないぞ」 「……その。とても、きれいで……それに、こんなに高価なものをいただくなんて……」 「わらわの趣味じゃ。こどもがおいしそうに食べる顔が見るのが好きでな。ほら、食べ」  望月は、おずおずとフォークを握る。  タルトにフォークを刺すとやわらかい果実が潰れ、さくっとタルト生地が音をたてた。  望月は、ぱくっと手にとったタルトの欠片を頬張った。 「わあああ……! おいしい……すっごく甘い……こんなおいしいもの、初めて食べました……!」  サクサクとしたタルトに、甘酸っぱい苺の風味。  こってりとした濃厚なカスタードクリームの甘味が口の中いっぱいに広がる。  つい、ご機嫌になって望月の耳がぴょこぴょこと跳ねた。 「白い童、ないすりあくしょん、とやらじゃの。そんなに気に入ったのなら、土産に持たせよう」 「え……いいんですか……だって、今の時代にお菓子を貰うなんて……」 「わらわに貸しをつくるのが怖いのかえ?」 「えっ……? そうじゃなくて、純粋にいい人だなって。僕には何のお返しもできないし……」  望月の食べる様子を、なんとなしに眺めていた郁が、ひとりごちる。 「ほんとうに、お前は疑うことを知った方がいい」  郁は、椅子から立ちあがった。 「……話がある」 「ん? ここじゃだめなのかのー……」  紅茶を飲みながら、森の魔女がくすくすと笑う。 「今は、茶の時間だぞ。黒い童も、紅茶とお菓子をお食べよ。まさか、ヘンゼルとグレーテルの話を信じてるのかの? かいらしいのう」  郁が、何度目か分からないため息をついて、再び、椅子に腰かけた。 「……発情期の抑制剤の調合を頼みたい」 「ほお」  森の魔女は、表情ひとつ変えず、フォークで苺を刺すとひょいっと口に運んだ。 「その程度、造作もないがね。しかし、用心深い汝が、薬を切らすとはなぁ」 「……俺じゃない。こいつだ」  郁が、望月を指さす。 「恐らく、一週間ほど前に初めて発情期を迎えた。自分でコントロールをするのが難しいし、症状が強いから、薬で調整してもらえればいいのだが」 「……なるほど、なるほど。黒い童の体力も持たないはずじゃのー……」  まるで、他人事だ。  しかも、女性なのに、蓮っ葉なことを言うではないか。 「お前……っ」  とうとう、郁が苛立ちを露わにする。 「ずいぶんと頭に血が登りやすいのう。そういうときは、糖分がよいぞ。そこに苺のタルトがある」  郁は、そっぽを向いた。 「……だから、この女が嫌いなんだ……誰が好きこのんでこの女に貸しなんて……」  ぶつぶつと郁が、文句をこぼす。 (郁、こんな顔するんだ……)  初めて見た年齢相応の顔だった。  だが、望月は、先ほどからふたりの会話が気になってならない。  おずおずと、望月は、手をあげた。 「ごめんなさい。あの発情期ってなんですか……」  郁が、これ見よがしにため息をつく。  森の魔女は、きょとんとした表情をした後で、目を瞬かせた。 「愛玩動物の性教育も飼い主の役目じゃないかの?」  まるで、郁と望月の関係性をあらかじめ、知ったような口ぶりである。 (本当に森の魔女さん、どこまで知ってるんだろう……まるで、全部、見ているようなことを言ってる) 「うるさい。今から説明すればいいだろ」  郁が、神経質そうに髪に触れ、初めて、ティーカップを手にとる。 ……とうに紅茶が冷えていたらしい。  郁が、舌を打つ。

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