26 / 93
3章-3
ざああっと森がわなないた。
濃厚な緑の匂い。
そして、しばらく歩くと視界が開けた。
「あ……」
その場所を目の当たりにして、望月は、目を瞬かせた。
夕暮れに映えるアネモネの花畑。
まだ、コロニーが襲撃される前に■■■■と過ごした場所だ。
「……故郷のことがずっと心配だったのだろう」
落ち着いた口調である。
だが、彼の瞳はやさしい。
「お前だって、もう逃げはしないだろう。しばらく、好きに過ごすといい」
郁は、そう言って、ひとりでふらりとどこかに行ってしまった。
「待って、」
ずっと、恋しかった場所だ。
ずっと、戻ってきたかった。
ここで物思いに耽れたら、とずっと考えていた。
だが、今は郁のことが気になる。
望月は、黒い影を追った。
郁がひとりで向かったのは、粗末な石板だ。
そこに朽ちた花が飾ってある。
郁はその石板に跪き、こうべを垂れた。
まるで、何かに祈るような、贖罪のような――そんな恰好に見える。
「もえぎ、」
風に乗って、その名が聞こえた。
囁きのような小さな声。
郁は、神聖なものに触れるように、丁寧に口にした。
(もえぎ――)
刹那、予感のようなものが、望月の頭を巡る。
もちろん、知らない名前だ。
だが、何か予感のようなものを覚えた。
夕日に照らされたアネモネの花が赤々と燃えていた。
花畑は静謐に包まれた。
ともだちにシェアしよう!

