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4章

4章 「今日は、野菜のシチューだ。もうすぐできる」  郁が、けだるげに鍋の中身をかき混ぜながら、話しかけてきた。  何せ、今は終末世界だ。  手に入る野菜は、貧相で萎びているし、牛乳も粉ミルクで代用している。  だが、郁は、料理が上手い。  ふうわりと漂う湯気と粉ミルクのやさしい香りに、お腹がきゅるきゅると音をたてた。 「あ、ありがとう……」  望月は、腹の虫が鳴いたことを少しばかり恥ずかしくなったが、素直に礼を言う。  スケッチブックと郁の読んだ本が散乱しているテーブルを片付け、テーブルを拭く。 「食器を出してくれると助かるのだが」 「うん、あっちの引き出しにスプーンがあったよね」 「ああ、頼む」  ふたりで、分担しながら食事の準備をすすめる。 (なんか、変な感じかも)  奇妙な共同生活の中で幾度となく反芻したことではある。  郁は、コロニーを滅ぼした張本人で、自分を所有物などと言う。  そんな彼は、望月の面倒をよく見る。  その様子は、過保護という言葉がよく似合う。  これは矛盾じゃあないだろうか。 「どうした? 腹は……減っているはずだろう? できたが」  両手にシチューの皿を持った郁が、アレキサンドライトの目を瞬かせた。  彼にしては、珍しく無防備な表情である。 「うん。お腹空いた」  望月は、ふにゃっと笑うとシチューの皿を受け取った。  今日の食事は、郁の手製の野菜のシチューと黒パンだ。  また、太古の森の帰り道、望月が野苺を見つけて、喜んでいたところ、案の定、郁は呆れていたが――。  望月のために野苺のジュースを作ってくれた。  望月は、甘酸っぱい野苺のジュースが気に入って、そればかり飲んでいる。  さて、向かいあって、食事の時間になった。  特に会話らしい会話はない。  郁は、ゆっくりと食事をする。  彼はスプーンを動かす仕草を眺めながら、ふと思う。 (そういえば、郁ってお肉、食べないよね。狼が眷属ってことは好きなんじゃ……?)  ここに来てから供された食事は、すべて野菜か果物、パンだ。  聞きかじった話によれば、市街地には肉の流通はあるらしい。 (もしかして、僕に気をつかって……?)  ふと、わきあがった疑問である。  こうなると、望月としては確かめたくて仕方がない。 「ねえ、郁ってお肉が嫌いなわけじゃあないよね」 「……食べられないわけではない」  スプーンを動かしたまま、郁が答える。  いつもの曖昧な答えだ。 「もしかして、僕に気を遣ってるの」  堂々の無視。  これもいつものことだ。  仕方ないので、郁の表情から答えを探ろうとしたが――。 「……顔、見すぎ」  感情の機微の推測をされるのが、嫌なわけではなく、顔を見られるのが恥ずかしいようだ。  人形じみた美貌にほんのりと朱がさした。 「……そんなにきれいな顔をしてるのに」  ぽつりと、望月が呟く。  もちろん、はなから返事なぞ期待していない。 「俺はこんな顔、嫌いだ。呪いみたいだ」  意外なことに、郁がそう返してきた。  聞き間違いだろうか?  望月は、驚いて、郁を見たが、彼は素知らぬ顔で食事を続けて、以降は口を開かなかった。

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