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4章
ちゃぷ、と水が波打つ。
望月は、食事の後片付けをしているところだ。
自分だけ何もしないのはフェアじゃない。
とはいえ、世間知らずで育てられてきた望月である。
できることは少ないが、最近は、家事をするようになった。
これも郁に教えてもらったことだ。
「それにしても変な関係になったなぁ」
あれだけ殺してやりたいと思った郁と一緒に食卓を囲み――最近は、ぽつぽつと会話をする。
ふと、望月の視界に、剥いたりんごの皮を見つけた。
「……毎日、りんごを買ってきてくれるし」
最初の頃は、横柄で、郁が不器用だから気がつかなかったが――。
郁は、やさしい。
毎日、市場によって萎びたりんごを望月のために買う。
当初、差し入れられた分厚い本は、望月が退屈しないようにという意図があったようだ。
だが、望月の嗜好には合わないと気がついたらしく、どこからか、古びたスケッチブックとちびたクレヨンを手に入れてきた。
あるときは、シャボン液を作ってくれもした。
郁と幼い趣味であるシャボン液の組み合わせもよく分からないし、その手つきがとても手慣れていたので――。
「もしかして、郁もシャボン玉好きなの? 楽しいよねえ」とニコニコと笑いかけた。
すると、郁の不興を買った。
「うるさい」
不機嫌そうにシャボン液とストローを押しつけて、どこかにでかけてしまった。
そんなことを思い出して望月は、くすくすとひとりで笑った。
「洗い物をしているだけでもお前は笑い転げるのか? 変なやつだな」
いつの間にか、郁が背後に立っていた。
「わっ」
望月は、驚いた。
(もしかして、さっきのひとりごと聞かれちゃったかな)
郁のことを考えていただけにそう思うと、いささかばつが悪い。
だが、郁の用件は別らしかった。
「その、明日、用事はないか?」
「……用事も何もここに閉じ込めているのは君だよね」
とうに、部屋につけられていた南京錠は外されている。
逃げないのは望月の意思だ。
たがいにそう分かっていながらも、郁は悔しそうに顔を歪めた。
だが、それも一瞬でいつもの人形じみた表情に戻ってしまう。
「かび臭いところだが」
「うん?」
「明日、俺の働いている店に来ないか?」
唐突な誘いだった。
だが、その誘いを嬉しいと思うよりも先に疑問が解決した。
時折、郁は家を空けるが、なるほど、働いていたらしい。
「郁って働いてたの? ねえ、それってどんな店? 郁もお店ではニコニコするの?」
「お前と話していると頭が痛い。普通に考えてみろ。貴族じゃないんだから、生活をするには金銭が必要だろう」
はあ、と郁がため息をついた。
(あ、郁の機嫌が悪くなったら、やっぱり、連れて行ってもらえないかも……)
望月は、大きな双眸を潤ませて、おろおろした。
「じゃあ、明日。それでいいな」
郁は、粗末なソファーに戻っていた。
どうやら、読みさしていた本があったらしい。
(わざわざ、誘ってくれたんだ……)
ほわっと胸が温かくなる。
名状しがたい感情だ。
そして、あれ、と望月は、小首を傾げた。
「……ところで、郁は何の仕事をしているんだろう……
結局のところ、教えてくれなかったので、望月の疑問は募るばかりだ。
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