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4章-1
「それにしてもあいかわらず、閑古鳥がないているな。映画でも観るか」
郁が、何やら機械(アーティファクト)を弄った。
すると、緩やかな旋律が流れる。
「きれいな歌だねえ」
「酒とバラの日々。俺もこの歌は好きかな」
モノクロームの映像には延々と堕落と退廃が映し出されていた。
男性が女性にチョコレートのリキュールを馳走したシーンから、ふたりの恋愛は始まる。
順調な生活にアルコールという娯楽が、徐々にふたりを蝕んでいく。
まさに堕落と退廃。
食い入るように、郁は映画を観ていた。
(もしかして、郁は、僕に外の世界を見せて――娯楽を教えようとした?)
そんな疑問が頭を過る。
問うまでもなかった。
もうこの狼の心がやさしいことに気がついていた。
彼の不器用なやさしさに気がついてしまった。
そして、望月は――。
(僕は郁に心を許し始めている……)
郁への感情がこみあげる。
身体がチョコレートのリキュールを飲んだように、熱い。
……ちょうど、画面は映画のラストシーンだった。
空虚な部屋にひとり取り残される男……。
「ねえ、もう映画は終わったよね?」
「ああ……ずいぶんとお前も集中していたみたいだな。その、面白かったのか?」
郁が、遠慮がちに感想を求めてくる。
もう郁の気持ちが手にとるように分かった。
自分が見せた世界を気に入ったのか、彼は臆病になっている。
彼が教えてくれたものならでいえば、望月が好きなことが確かにある。
「ねえ、僕、きみのことが欲しくなっちゃったみたい」
うっとりとした目で、その細い姿態を眺める。
衣服の下に、白い柔肌があることも、甘い匂いがすることも、熟知していた。
うっすらとあの甘いショートケーキの匂いがした。
「でも、今は、就業中……」
言い訳のように、郁が濁す。
その華奢な顎から首にかける細い線をそうっと撫でると、ぴくん、と小さく身体が跳ねた。
あくまで指で触れるだけ。
それでも、郁は、はふ、と熱く湿っぽい吐息を洩らす。
否定もしないが、肯定もしない。
そんなどこか、マゾヒスティックな彼をじわりじわりと追い詰めたくなってしまう。
「けど、お客さん、誰もいないじゃない」
望月が逃げ場を奪うと、彼は途方に暮れたような顔した。
しかし、アレキサンドライトの瞳は、煽情的に潤んでいた。
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