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5章【真相】-1 追憶のアネモネ編
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視界が白く塗りつぶされていく――つきん、と頭に刺すような痛みが走った。
次の瞬間、望月は、再び、別の時間軸の過去に飛ばされていた。
ここは、コロニーらしい。
白うさぎのコロニーほど、原始的な生活様式ではないようだが、市街地とは景観が違う。
行きかう亜人種の誰もが黒狼の身体的特徴を有していた。
(ここは、黒狼の、コロニーってことなの……じゃあ、ここは郁の故郷……?)
――そもそも、自分で自分の故郷を滅ぼしたとか聞いたぜ。
これは、白うさぎのコロニーが失われた日に、郁が屠った亜人種が残した言葉である。
もしも、その言葉が本当なのだとしたら――。
『今、現在、黒狼のコロニーはこの世界に存在しない』
望月は、千里眼を使って、過去の失われた場所、記憶を視ているということになる。
途方もないことだ。
前回の――兄に捨てられた郁の過去を含めて、夢だったらどんなにいいことか。
だが、もえぎは――郁の妹は言った。
「……今こそ、真実を知るべきなのよ……」
きっと、もえぎが望月に知らせたい何かが、望月の知りたい手がかりの断片がこの世界にあるはずなのだ。
そう望月は、自身を鼓舞し、立ち上がった。
そして、あてどなく、黒狼のコロニーをさまよった。
郁や自分とそう変わらないであろう年齢のこどもたちが、無邪気にかけていく。
大人たちはゆったりと談笑していた。
黒狼は、種族的には強い眷属とされているが、自分のコロニーと大差ない平和的な光景に思えた。
(でも、なんだか、苦手だな)
望月は嗅覚的にこのコロニーの異様な空気を察していた。
それが何かまだ分からない。
しかし、この場所に必要以上に留まりたくない。
そんな思いでコロニーの中心に位置するレンガ作りの住居と広場が連なる場所を離れた。
望月は亜人種たちの波に逆らい、緩やかな丘を登っていった。
そこにぽつん、と一軒だけ粗末な小屋がある。
「すみませんー……」
望月は、その小屋をノックした。
小屋というよりも廃屋という言葉が近い。
風でも吹いたら飛んでいってしまいそうな申し訳ない程度のベニヤの扉を叩く。
返事はない。
望月はそっと小屋に入った。
ベッドに誰かが横たわっていた。
それは、あの少女――もえぎだった。
白い空間で会ったときと姿が変わらない。
だが顔色がひどく悪い。
いっそう病的とも形容すべき、青白い肌をしていた。
「もえぎ!」
彼女なら、この世界でも望月を知覚できるかもしれない。
一縷の望みにかけて、彼女の名前を呼ぶ。
途端、青白いもえぎの顔が、ぱああと明るくなった。
「おにいちゃん!」
振り返ると郁が、息を切らせていた。
(どうやら、もえぎが見ていたのは、扉の前に立っていた郁らしく、この世界のもえぎも望月を認識できないらしい)
興奮のためか、丸い頬が紅潮している。
「聞いて、もえぎ! 今日は、大人たちが狩りに行くんだって。おれも連れていってもらって――」
郁が、忙しなくまくしたてる。
「そうしたら、今日こそ、もえぎに栄養のあるものを食べさせられるよ!」
彼はひどく嬉しそうだった。
もちろん、彼女を安心させようとしているニュアンスもあるだろう。
それよりも、妹の食事を確保できることに喜んでいるようだ。
ニコニコと笑っている。
初めて見た郁の無邪気な笑顔だった。
「そうなんだ。でも、おにいちゃん、無理しなくていいんだよ」
聡い子なのだろう。
もえぎは落ち着いた口調で言った。
「え……? もえぎ……?」
「あ、ううん! おにいちゃんが私のために頑張ってくれてるの、嬉しい。でも、その、狩りって危ないよね……? おにいちゃんが怪我とかしちゃったら、私、やだなって」
「でも、お腹は空くでしょう?」
郁が諭すように確認をする。
「そんなの、が、がまんできるもん!」
もえぎとて、まだ年端いかないこどもなのだ。
兄を説得させる言葉が思いつかないのか、むうと唇を尖らせた。
「とにかく、みんなが狩りに行く前に頼んでくるから!」
郁は、もえぎを喜ばせたくて、この小屋に寄ったのだろう。
また、バタバタと忙しなく、出て行ってしまう。
ひとり取り残されるもえぎ。
「……私は、おにいちゃんと一緒にいられる方が嬉しい、よ……」
どこか、達観したようなもえぎの物言いを不思議に思いつつも、望月の疑問はすぐに氷解する。
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