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5章【真相】-1 追憶のアネモネ編
「だめだ」
壮年の大男は郁の頼みをそう一蹴した。
「な、んで……」
郁は、言葉に理解が追いつかないといったように、茫然とした。
「なんでってお前はまだ、こどもだからだ。だから、狩りには連れていかない」
断定的な言葉で男はなおも続ける。
「お願い、連れていって……!」
だが、郁は食い下がらない。
「もえぎ、もえぎがいる! 病気なんだ。栄養のあるものを食べさせないと――」
「くどい」
大男は、そう言うと郁の痩身を突き飛ばした。
「あ、う……っ」
郁は、あっけなく吹き飛ばされ、地面に転がった。
その様子をギャラリーがにやにやとしながら眺めている。
(また、この空気だ)
このコロニーに漂っている名状しがたい嫌悪感が過る。
だが、郁は苦しそうに呻きながら乞うた。
「お願、つれて、いって、もえぎ、が、死んじゃう、」
なおも、大男の足にしがみつきながら、必死に乞う。
「うるさい」
大男は丸太のような足で、郁の背中を足蹴にした。
「か、はッ」
空気の洩れる音がして、郁は、小さな身を丸めたまま悶えていた。
――もえぎは子産みの道具だから生かしておかなければいけないが。
――でも、兄はコロニーを裏切った。そもそも、あの一家は、昔から協力的でなかった。
――何より、父は何かに憑かれたように、狂い、突然……命を絶った。
――母親は、蒸発した。
――それに兄だって……郁のあの顔は、兄と同じだ。呪われている。
あちらこちらから、小声でそんな下卑た噂話が飛び交う。
どれも、耳に入れたくない醜悪な内容だ。
憶測の域を出ない――だが、狭いコロニーにおいて、郁の一家は恰好のスキャンダルの対象であり、差別される存在なのだと理解するには充分だった。
結局、蹲る郁を置いて、大人たちは狩りに行ってしまった。
郁が微動だにしないので、こどもたちはバケツに水を汲んで、郁にかけた。
郁が、水の冷たさに驚いて、ぎゃっと叫ぶとこどもたちはげらげらと笑い転げた。
望月は、ただ、その光景を見ていた。
だが、尊厳のない扱いをされてもアレキサンドライトの瞳は、まだ希望を見失っていないようだった。
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