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5章【真相】-5 追憶のアネモネ編※成人向け描写あり
ちゃぷん、と湯が揺れる。
猫足のバスタブに、背後から潮に抱きしめられるように、郁は浸かっていた。
潮さま、と呼びかけて、郁は我に返る。
つい先ほど、潮と呼んでほしいと言われたではないか。
「……潮は、おれのことをすぐにこども扱いする……」
拗ねた物言いで、郁がぽそっとこぼす。
「えー……こども扱いはしてないかなぁ……」
潮のやさしい手が、郁の濡れた髪に触れた。
「髪……やわらかいね……」
先ほど、香りのいい洗髪剤で清めてもらったばかりだ。
潮と同じムスク系の甘い香りが、髪から漂っていた。
「ふふ、潮と同じ匂い」
嫌がられるかな、と思いつつも、背後の潮にもたれる。
すると、大人のオスの長い腕が伸びてきて、抱きすくめられた。
その瞬間、郁は真っ赤になってしまう。
『好きな人』に触れられることがこんなに嬉しくて、恥ずかしいことだとは思わなかった。
「……もしかして、照れてる?」
「ちがいます……ただ、のぼせただけで……」
あきらかな言い訳だ。
だが、上手い逃げ道が思いつかなかったのも事実。
「ふうん、そうなの?」
面白そうに潮が喉を鳴らす。
それから、思いついたように、手を引かれる。
「のぼせたのなら、風呂から出た方がいいかもしれないね」
「あ、はい……うん……」
申し訳ない程度に、身体を拭かれた後――隣にあるベッドルームに連れていかれた。
「ねえ、潮、どうして裸……なの……服、着ないと変だよ……」
郁は、手で下腹を覆いながら、おずおずと問うた。
以前、コロニーのこどもたちに裸に剥かれて、まだそこに体毛が生えていないことや性器が小さいことを笑われたのがコンプレックスだった。
それに、郁の身体はあざだらけで汚い。
潮は、無言で郁の手を引いた。
その力がいやに強くて、郁は、息をこぼした。
すると、潮が、ベッドに郁の身体を押し付けた。
やわらかいマットレスの感触。
ベッドのスプリングが、ぎっと軋む。
「え、潮……?」
「ごめん、郁に好きって言われたからかな……歯止めが利きそうにない。だめな恋人でごめん」
そっと潮が郁の頬に触れた。
郁は、身体をぴくっとさせてしまう。
そして、言葉を紡ぐ前に唇を奪われた。
熱い、と思ったのも一瞬。
「ん……ふぁ……っ、あ……っ、ん……んん……ふっ……ぅ……ん……」
熱い舌が強引に狭い口腔にねじいれられた。
たっぷりと唾液を含んだ舌が何度も、郁の舌に絡みつく。
(上手く、息、できな……くるし……これ……なに……)
ちゅっ、と音をたてて、舌に吸い付かれる。
すると、舌がじん……と痺れた。
気づくと郁も潮を求めるようにキスに没頭していた。
「は、ふ……っ……んぅ……っ、ふ……はっ……んんっ……ふぁ……っ」
鼻にかかったような息遣い。
獣が甘えるような本能的な声が微かに洩れる。
いつの間にか、潮の手が郁の柔肌に触れていた。
「んっ……は……ぅ……」
唐突に、潮が口を離す。
「だめ? 郁が怖いならやめるよ」
そうは言うものの、潮の目は欲情したオスそのものだった。
獲物を逃がすまいと郁の手を牽引する力が強い。
まるで、自分が捕食者のようだと郁は錯覚してしまう。
「少し、怖いかもしれないけど、嫌じゃない……」
郁は吐露した。
郁は、聖母のように美しい笑みを、潮に向けて……。
それから、彼の手から逃れると潮に抱きついた。
「あなたが与えてくれるものならば、おれはなんでも嬉しい――んっ!」
もう我慢ができないというように、潮が、郁の頸を舐めた。
……いつの間にか室内にショートケーキの甘ったるい匂いが漂っていた。
丁寧に愛撫をした後で、潮は破瓜を破った。
まるで、凛と咲いた花を散らすように。
郁は苦痛に顔を歪める。
だが、その顔には、悦びが浮かんでいた。
郁は、潮に抱きついた格好で、ただ、彼を受け入れている。
ベッドが激しく軋む。
(もう見ていられない、こんなの、こんなのは)
……傍らにいた望月は、狂おしいほどに感情に苛まれていた。
胸が苦しくて、はりさけてしまいそうだ。
ずきずきと痛む。
耐えられなくて、その場を去った。
その光景から目を背けた。
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