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5章【終焉】 散華編
5章【真相・終焉】
その日も例のごとく、潮に呼び出されていた。
郁は痛む胃を抑えて、屋敷に向かった……。
「え、」
部屋に入るなり、郁は言葉を失った。
「……ずいぶんと遅かったようだね。郁……どこで道草してたの?」
潮の声はいつも通り柔和だが、郁の遅刻を咎めるニュアンスがあった。
それよりも郁は『いつもと違うこと』が気にかかっていた。
「潮……その人たち……」
郁は、震えながらそう問うた。
潮の周囲に輪ができていた。
……表面上は、彼の友人だが、取り巻きだ。
彼らは煙草をふかしたり、酒を吞んでいたりと自堕落な振る舞いをしていた。
空いた酒瓶が床に転がっている。
煙草の吸殻が、灰皿の上で山のようになっていた。
部屋はアルコールの嫌な臭いと紫煙で煙っていた。
「ああ、たまたま郁の話をしたらね――みんながお前と遊びたいって言いだしてさ。だから、今日、招待したんだよ」
「そ、んな……」
喉がからからに乾いていく。
潮と郁の間で『遊び』という言葉は性交――厳密には凌辱を意味していたからだ。
「やだよお……」
郁が、懇願する。
「おれ……潮以外に抱かれたくないよう……」
甘えた声でそう『恋人』にねだる。
だが、あっけなく、潮は一蹴した。
「みんな、お前がどうしようもない淫乱だから、お前を満足させようと集まってくれたのに? 厚意を無駄にするのかい?」
やさしい物言いが、的確に郁を追い詰めていく。
「そういえば、昨日はお腹いっぱいになったのかな? 昨日は、反抗的な態度をとったね。お仕置きで、食事はスープだけにしたけど、あれだけでもえぎのお腹はいっぱいになったのかなあ」
最近、潮の機嫌を損ねると、わざと食事を減らされていた。
もえぎは食事の量については何も言わなかった。
だが――もしも、もえぎがひもじい思いをしているのだとしたら?
それを兄である自分に言えずにいたのならば?
郁の頭は真っ白になってしまう。
腕がだらりと落ちた。
「うんうん。郁は食い意地が張ってるからね。お腹、空くの嫌だよねえ?」
(ここで、逆らったら今夜の食事はなくなってしまうかもしれない……)
最近の潮の挙動を見ていれば、充分にあり得ることだった。
郁は、きゅっと唇を嚙み締めた。
「……上手にできたら、久しぶりにもえぎの好きなショートケーキを用意してあげる。あの子、甘いもの好きだろう?」
潮の言葉はまるで悪魔の甘言だ。
だが、郁はぱっと顔をあげた。
「ほんとう、に……?」
甘いものを見たら、珍しくもえぎが笑顔を見せてくれるかもしれない。
この頃は体調が悪いのもあるだろうが、もえぎは口数が少ない。
それに、食事をあまり摂ろうとしないでベッドに臥せってばかりなのだ。
妹のことを想って、胸がぎゅうっと痛む。
「や、やります……やりますから……」
「郁、言葉が間違っているよ。みんなは淫乱のお前に奉仕してくれるんだからさ」
そこで潮が言葉を切った。
「そこで土下座をして犯してください、だろう」
郁の目に涙が浮かぶ。
どうして、自分は愛する人にこんな仕打ちを受けているのだろう。
どうしても、その理由が分からずに頭がぐちゃぐちゃになってしまう。
だが、熟考する余裕はなかった。
潮の機嫌を損ねたら、約束はなかったことにされてしまうかもしれない。
それに――潮が命じた以上、はなから郁に選択の余地などないのだ。
郁は、カーペットに三つ指をついて、深く頭を下げた。
「……い、いんらんの、おれのために……ありがとうございます……食い意地がはってて、どうしようもなくて……恥ずかしいおれを……いっぱい……犯してください……」
郁の言葉にどっと輪がわく。
「郁が淫乱ってまじだったのかよ。ていうか、潮、よくここまで調教したなあ」
「もはや、都合のいい性奴隷だろ、コイツ。食べ物ひとつでこんな必死になって馬鹿みてえだなあ!」
嘲りの言葉に頬が熱を持つ。
泣くと潮の機嫌を損ねるので懸命に涙をこらえる。
「はい……おれ……犯されるの、すき、です……虐められるのが……すきなんです……どうしようもない……いんらん、なんです……だから、おれでいっぱい性欲処理をしていただけるのが……悦びなんです……」
郁は、カーペットに額を擦りつける勢いで土下座をした。
オスを悦ばせる言葉は、潮に犯されているうちに勝手に覚えてしまった。
郁の意思というよりも、口が勝手に動いて下品な媚びを売るのが常だった。
そうしたら、気分が良くなるのだろう。
潮は気持ち程度にはやさしくしてくれる。
郁のはしたない言葉に、げらげらと笑いが広がった。
「あ、は、あはは……」
郁も笑っていた。
別段、おかしくはない。
だが、卑屈な媚びゆえに一緒に笑って、自分を貶めた。
自分には、そんな扱いが似合う気もするのだから不思議だ。
「ほら、ベッド行くぞ」
上から声がしたが、郁は顔をあげなかった。
顔をあげたら地獄が待っているから。
取り巻きのひとりが舌打ちをして、郁の手を引っ張る。
もう、郁の顔は人形じみた無表情だった。
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