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5章【終焉】-2 散華編

2 「潮……今、なんて言って……」  郁のこめかみから一筋の汗が垂れていく。  問うた唇は震えていた。 「……至急、もえぎとの婚儀を進めると言った」 『恋人』としての潮ではなく、コロニーの次期長として潮はそう宣言した。 「でも、もえぎはまだこどもで――」 「けれど、あれの体調は日毎に悪くなっているだろう?」  郁はぎゅっとブラウスの裾を握った。  まさに潮の言うとおりだった。  元々、病弱だったもえぎは、日を追うごとに弱っていった。  常に青白い顔でベッドでまどろんでおり、この頃はろくに食事を摂ろうともしない。  衰弱は目に見えていた。 「――あれにはね、生きているうちに子を産んでもらわないと困るからね」  その言葉に、郁は唇を噛んだ。  この時代にメスの個体に求められている役割はひとつ。 「あれは子産みの道具だ。お前たちの一家は、コロニーで問題を起こしてばかりいたが、皆が目を瞑っていたのは、もえぎの存在があったからこそ」  その言葉で郁の中で、繊細な何かがぱきん、と澄んだ音をたてて割れるのを感じた。 「……もえぎは道具なんかじゃない。ましてや、子産みの道具なんかじゃあ……」  このときばかりは、折檻を度外視して、強く潮をねめつけた。  すかさず、頬に平手が飛んでくる。 「くどい。次期長としての通達は以上だ。ほら、郁」  淡々と事務的に告げた後に潮は甘やかすような声色で言った。  そして、郁の身体に手を伸ばした。 「嫌だ!」  郁は、その手を乱暴に振り払うと、部屋を飛び出した。  潮がふう、とため息をつく。  ゆっくりと手を伸ばし、デスクの上にあった煙草にマッチで火をつける。  潮は、紫煙をくゆらせながら、ひとりごちた。 「馬鹿な子だなあ。今頃、家には屋敷の者が通告に言っているはずだし、コロニーの掟は絶対なのに、」  そう言って、潮はくくっと喉を鳴らした。

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