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5章【終焉】-2 家族の記憶
(もえぎ……もえぎ……)
あの後、すぐにもえぎが廃屋の前で蹲っていないかと確かめた。
たまに郁と喧嘩をしたり、嫌なことがあるといつも廃屋の前にしゃがみこむからだ。
しかし、もえぎの姿はなかった。
郁は、丘を下った。
もちろん、もえぎはいなかった。
「どうして、おれ、あのとき、もえぎの手を離してしまったんだろう」
後悔のあまり頭を抱えて蹲りたくなる。
それから、郁はコロニーの外れにある小川に向かった。
まだ、薫ともえぎ……三人で暮らしていたときによくこの道を散歩した。
兄は楽しそうにステップを踏んで、先を行ってしまう。
兄の奇妙な鼻歌を今でも覚えている。
だから、郁はまだよちよち歩きのもえぎの手を引いて歩いたものだ。
「郁、もえぎ」
兄が、優美な仕草で振り返って、にこにこと郁ともえぎを見た。
「ほら、チョコレート、好きだろう。ふたりでお食べ」
そう言って、よくチョコレートを郁に手渡した。
郁は特別、甘いものは好きではなかったが……。
「どうしたの? 郁、食べないのかい?」
兄は、微笑むと郁ともえぎの頭を順番に撫でた。
「これが■■■■ってことかな?」
うーん、と彼はうなって何やら呟いていた。
どうしても、兄のその言葉が思いだせないのだ。
それから、郁ともえぎと順番に髪を撫でた。
もえぎはきゃっきゃっとはしゃいだ笑い声をあげる。
「……もう。兄さん、どうして、おれまで髪を撫でるの? ぐしゃぐしゃになるでしょ」
ただでさえ、ひどい癖毛なのに、兄が撫でまわすせいで髪がぐしゃぐしゃだ。
すると、兄はやさしそうに目を細めた。
「お前たち、かわいいね」
「……はあ」
兄は軽薄そうに見えるのに、難解な物言いをするので郁にはよく分からない。
郁ともえぎは巨木のうろに並んで、チョコレートを齧り出す。
もえぎは、舌が蕩けそうなほどに甘い菓子をとても喜んだ。
郁はこそばゆく思いながら、甘ったるい菓子を咀嚼したものだ。
だが、もう家族はいない。
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