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5章【終焉】-2 家族の記憶
「あ、」
ふと、郁は小川の上にある崖を見つけた。
……父は、発狂してあそこから飛び降りたと兄から聞いた。
詳しくは知らないが、その頃、家の中に妙な、熟柿のような……腐りかけの甘ったるい匂いが漂っていて、胸がざわざわしていたのだけは覚えている。
段々と父の様子がおかしくなっていって――最後は崖から飛び降りた。
兄は、悲しいのか美しい貌を伏せたまま、郁にそう語った。
それから、天使のようなその貌に一筋の涙が流れていたのを覚えている。
郁は、不器用に、兄の髪を撫でた。
……兄の真似をしたつもりだった。
(余計なことを思いだしたな)
郁は家族という亡霊の存在を思いだし、かぶりを振った。
今や、郁の家族はもえぎひとりだ。
妹を探さなければ。
その後も郁はもえぎがいそうなところ――家族との思い出がある場所を巡ったが、いつまで経ってももえぎは見つからなかった。
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