78 / 93
5章【終焉】-2 散華編
森の奥深く――いつか、郁が座り込んでいた丸太に小さな影を見つけた。
もえぎが、蹲っていた。
「もえぎ、見つけた……探したよ……」
「おにいちゃん、」
のろのろと緩慢にもえぎが顔をあげる。
「わたしね、ずっと……迎えに来るの待ってた……」
声はうつろなままだ。
妹の吐露に胸が痛くなる。
「迎えに来るのを遅くなってごめん」
「ううん。おにいちゃんはいつも私を迎えに来てくれるから……昔から、ずぅっと……」
どこか、寂しそうな笑みを浮かべてもえぎがそこで言葉を切る。
一瞬、間が空いて――森のわななきだけがいやにうるさく聞こえた。
郁は、きゅっと口を閉じた。
それから、勇気をだして、切り出した。
「もえぎっ、おれが間違ってた……もえぎの言うとおりだった……ね、こんな場所、もう出て行こう……これからは、何にも縛られずふたりで生きていくの」
「……ほんと?」
小さな声でもえぎが問うた。
「うん。どんなに苦労してもいい。ふたりで生きていければ、それで、おれは幸せだから。だから、もえぎ……外に行こう」
やっと、もえぎが、微笑んだ。
体調のせいか弱弱しくはあるが、いつものもえぎの笑顔だった。
「うれしい、私、その言葉を待っていたの……ずっと、ずっと……」
もえぎが郁の腕にもたれてくる。
なんだか、熱っぽい。
それに鼓動がいやに早かった。
彼女がげほっとせき込み、黒い何かを吐いた。
郁は、ぞっとした。
「もえぎ、具合悪いの? 見つからないうちに家に帰って荷物をまとめよう。ここにいちゃいけない、から……」
たどたどしく、郁は妹にそう促した。
――何か、嫌な予感がする。
だが、気のせいだと願いたい。
だって、これからふたりでこの“鳥かご“を出ていくのだから――!
「その言葉が聞けて、私、幸せだった……」
ことん、とガラス玉が落ちるように、もえぎが言った。
「……もえぎ、どういうこと――」
――目にあるものが止まった。
郁は、それに気がついて息を呑んだ。
腕の中でもえぎの表情は、泣き笑いに変わり――。
「でも、もう遅いんだよ……」
――それが、彼女が残した最後の言葉だった。
ともだちにシェアしよう!

