95 / 111
幕間 ひとりぼっちの狼と望月の出会い②
「間に合わなかった……」
郁は、茫然と呟いた。
(また、俺は同じ過ちを――)
目の前では、白うさぎたちが、あちらこちらで苦悶に呻く声がする。
充満した血の匂い。
生きている者はわずか。
だが、それももう遠からず――死ぬだろう。
郁は、かつての自分の故郷の最期を思いだして、くっと唇を噛み締めた。
すると、何者かが、ずる、と郁の足に縋った。
老いた白うさぎの亜人種だ。
「俺は敵じゃない。助けに来たと信じてくれ……」
何せ、黒狼の風貌だ。
それにこの状況では、負傷者の混乱を招くだけだ。
届かない願いだとは思うが、そう祈りながら口にする。
「ああ、天使さまが見える。なんと、美しい……」
老いた亜人種は、視界が霞んでいるのか、郁に手を伸ばした。
郁はその細い身体を腕で支えた。
致命傷を負っているうえに、雨風に打たれて体温がひどく冷たい。
郁は顔を歪めた。
「天使さまにお願いがある……望月が、いないんだ」
「……望月が?」
郁の背にひやっとしたものが走った。
こんな嵐の晩に望月はどこに行ったというのだろう。
「どうか……老骨の最期を……あの子だけは……天使さま、望月を守ってほしい、かはっ!」
虫の息でそう言った老いた亜人種は激しく喀血した。
「もう喋らなくていい。大丈夫。望月は必ず見つけるし、俺が守るから……」
「……ありがとう……ありがとう……」
老いた彼はそれだけ言うと、郁の腕の中で息を引き取った。
最期は苦悶ではなく、穏やかな微笑みを浮かべていることに安心した。
郁は、そっと身体を離す。
衣服が老いたうさぎの血にまみれていた。
「……約束は守る」
ともだちにシェアしよう!

