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幕間 ひとりぼっちの狼と望月の出会い②
「触らないで!」
だが、鋭い拒絶の声に郁の動きは止まった。
望月の赤い瞳は憎しみを湛えていた。
(どうして、そんな目で俺を見る?)
無性に、頭を掻きむしりたい衝動にかられた。
どうして、望月には分からないのだろう。
どうして、どうして――。
「なあ、お前も捕食者側なら分かるだろっ、というか、これは、お前の成果だもんなっ! 横からとった俺らが悪かったよ、なあっ」
卑屈な媚びを見せて、生き残りの亜人種が話しかけてくる。
こいつも望月に危害を加えるやつだ。
そして、望月がいつかの自分と重なって見えた。
その瞬間、勝手に身体が動いた。
気がついたときには、その場には自分と望月しか残されていなかった。
望月はひどく怯えているのか、目に涙を溜め、心もとなく震えていた。
(怖いのか)
周囲の惨状を見て、無感情に郁は思う。
それから、どう声をかけるべきか考えあぐねて――。
「……お前、大丈夫か……?」と言葉をかけた。
これで、あの老いた白うさぎとアネモネとの約束は守れたとほっとしながら。
すると、望月が小さく言葉を発した。
「お前、お前が……」
小さな声なので、よく聞こえない。
郁が、一歩踏み出すと望月が問うた。
「お前が僕の故郷を滅ぼしたのか?」
その言葉に息を呑んだ。
ああ、と郁は全てを理解した。
何も知らない望月からしたら、自分は彼の故郷を滅ぼした侵略者だと認識するのが正しいだろう。
そうじゃない、と否定の言葉がつい口に出そうになる。
だが、それは欺瞞だ。
望月の前で無益な血を流したじゃあないか。
(それに、これは――)
(もえぎを殺した罰なんだ。罰は甘んじて受けなくちゃいけない……)
郁は、たまゆら、瞳を閉じた。
そして、アレキサンドライトの瞳を開いた。
その瞳には諦念の色があった。
「だとしたら?」
口をついたのは平坦な声だった。
このとき、郁は自分が『望月の故郷を滅ぼした仇だといううそ』を思いついた。
自分以外に適任はいないだろう。
とんだ、大根役者だが。
「こいつ……!」
怒りに身を任せて、望月が自分に掴みかかろうとしたが、郁が、身を交わしたせいで、望月が無様に泥濘に転ぶ。
その弱い様は過去の自分によく似ていた。
「弱いお前に何ができる? 今も泥の中を這いつくばっているだけだろう」
――かつての自分もそうだった。
「お前が弱いから故郷を守れなかったんじゃないか?」
――俺が弱いせいでもえぎは死んだ。
感情を抑えたつもりだったが、言葉は溢れてとまらなかった。
何を話しているかも定かではないほど、郁は冷静さに欠けていた。
「お前だけは許さないっ、殺すっ、殺す……ぐ、アッ……!?」
赤い瞳がぎらぎらとした殺意の光を帯びながら、郁を睨みつけた。
「反吐が出るくらいの綺麗事だ。いただけないな」
――俺は、弱かったからあのとき、もえぎを守れなかった。
でも、今なら望月を救うことができる。
たとえ、どんなに歪な形だとしても。
記憶が曖昧だが、暴力と言葉で彼をねじ伏せ、郁は断じた。
「お前は俺の物だ」
そして、あの悪夢のような嵐の晩から――郁の罪がまたひとつ増えた。
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