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6章-2
「か、はッ!」
郁は、喀血した。
その可憐な少女めいた見た目に相応しくない怪力が、鳩尾に叩き込まれた。
本能的に彼女から間合いを取る。
肋骨の2、3本、右腕を折られたが、まだ戦える。
肩で息をしながら、目の前の少女を見た。
「……ずいぶんと粘るのね。亜人種のわりには健闘している」
アネモネは、無感情に呟いた。
その華奢な腕がごき、と鳴った。
華奢な関節には似つかわしくない重い音だ。
一方、彼女は汗ひとつかいていない。
「……さすがは、対亜人種用のバイオノイド兵器か」
汚れ切ったシャツの袖で、口元を拭いながらそうこぼす。
率直な感想だった。
プティ・アネモネは――紅蓮の魔女は強い。
人類の英知と悪意によって生まれたバイオノイド型兵器。
その威力は計り知れない。
アネモネの頬がかっと紅潮した。
唇が怒りにわなわなと震える。
「その名前でわたしを呼ぶなあ!」
ごっと凄まじい威力の拳が郁の頬を掠めた。
ちり、とそこが熱を持ち――血が滲んだ。
「くっ……!」
苦戦を強いられた郁は後ずさる。
「わ、わたし、わたしはっ、プティ・アネモネだ! 望月がその名を与えた! わたしは紅蓮の魔女ではない……! 感情を知った人間の女なんだぁあああ!」
「プログラムが絶対のバイオノイドが感情を知った、か。皮肉な話だな」
郁は、そう口にしつつも、内心では焦りが生じていた。
正直なところ、勝算はまるでない。
だが、この魔女を野放しにはできない。
彼女は亜人種に災厄をもたらす存在だ。
今は、望月への恋慕があるからいい。
だが、プログラムの干渉により、感情を失ったら。
この女は躊躇なく、望月を――殺す。
「だから、ここで……なんとか、しないと……はっ……!」
ぼたぼたと口から鮮血が滴る。
郁は美貌を血と汗で濡らしながらも、望月を守るという感情の防波堤だけでアネモネと対峙していた。
だが、自分は有機体の存在だ。
体力というかぎりがある。
(最後の切り札はある……だが……それは……)
そこで郁は、はっとした。
先ほどまで、郁を殺そうとしていたアネモネが動きを止めたのだ。
ふと、郁は花の匂いがすることに近づいた。
それは、段々と濃く匂い――その存在が近づくことを示していた。
(うそ、うそだ……)
郁の頭を先ほどとは別の絶望が過る。
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