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6章-2
地面に、瀕死の紅蓮の魔女が仰臥していた。
郁と望月は、元の姿に戻り――少女を見下ろした。
もう、勝負はついていた。
あとは、時間の問題なのだ。
これ以上、無益な戦いは必要ない。
「いたい、いたいよお……」
ぐずぐずと紅蓮の魔女が、泣きながらそう訴える。
その姿はまだ、プティ・アネモネであったときの彼女の姿を彷彿とさせた。
「ねえ、もち、いたい、いたい……くるしい……」
ずるずると最期の力で少女が望月に縋る。
望月は躊躇なく、少女の手をとり、そして腕の中に抱き寄せた。
「……僕は、ここにいる、よ……」
なんと、彼女を呼んでいいか逡巡したあと、かつてと変わらないやさしい声で囁く。
「ほんとうだぁ……お日さまとお花の匂い。もちの、におい」
少女は、安心して、望月の胸元に鼻を埋めた。
それから、ゆっくりと力を抜いた。
「ねえ、もち」
かひゅ、かひゅ、と破れた喉から嫌な音を洩らしながら、少女は問うた。
「もしも、わたしが、兵器じゃなくて、」
「この世界に人間も亜人種もなくて、」
「……うん」
「みんな一緒なら……わたしたち、みんなしあわせになれたのかな? 友達として仲良くできたのかなあ……」
少女の眦に涙が浮かぶ。
望月には、その問いには答えられない。
死にゆく少女に――自分たちが手にかけた少女をさらなる絶望に堕とすことはできない。
それは、望月のエゴだった。
「……活動停止装置はどこにある?」
ふと、郁が問うた。
「お前がバイオノイドなら活動停止装置があるはずだ。これ以上、苦しい思いはしない」
淡々と郁が感情を抑えて、瀕死の少女に語りかける。
「……頸の、うしろ」
少女は、残酷な現実を受け入れて、素直に明かした。
「でも、」
少女はうつろな紅蓮の瞳で、望月を見た。
「わたしの、最期は……望月の手で終わらせて、最期の、わたしのわがまま」
それは、いつかに聞いた言葉と重なった。
「あなたの腕の中で眠りにつきたいの、それだけ」
少女は、死の間際なのに、あどけなく微笑んだ。
「怖がらないで、あなたは、わたしを殺してない。亜人種としてすべきことをしただけ。それにわたしは死ぬんじゃない。ただ、眠るだけ。くうくうとまどろむように――」
この少女は、残される望月を案じて、懸命に言葉を重ねる。
その間にも一回、喀血した。
震える手で、望月が、細い頸の後ろに指を伸ばす。
「ねえ、望月」
最期に彼女は問うた。
「わたし、シャンソン人形、じゃなかったよね……」
それから、恥じたように口唇を噛み、ややあって、満面の笑みを浮かべた。
だが、そのかんばせは血に濡れていた。
「ごめんね。おしゃべり、疲れちゃった……もう、お昼寝したい、」
望月が、活動停止装置に指をあてがう。
「おやすみ、もち」
その言葉と同時に望月が、スイッチを切った。
望月の腕の中で、だらり、と人形のように少女が弛緩した。
もう微動だにしない。
だが、その顔は、彼女が言ったとおり、昼寝でもしているように穏やかだった。
アネモネの花畑の風が吹く。
そして、望月の咆哮が花畑に響いた。
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