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第2話 凌蹂*
寝所の入り口にかけられた鮮やかな模様の布扉をくぐると、ホルセムはそのまま真っ直ぐ寝台へと近づいた。ホルセムに抱えられ、もがくトゥアルセティスの身体を、乱暴に寝台の上へと放り投げる。
「っ、よせ……!」
叔父はすぐさま体勢を立て直そうとした。が、そんな隙を与えてやったりはしない。ホルセムは自分も寝台に上がって、相手の細い身体を押さえ込んだ。
暴れようとする身に圧 し掛 かる。両の手首をつかんで、仰向けに縫い止めた。髪結い紐がほどけたのか、それまで後ろでひとつに束ねられていた長い銀髪が褥 の上に広がった。
ホルセムは鬱金 の眸に憎悪と怒りを滾 らせて、仇敵である相手を見下ろした。
トゥアルセティスは唇を噛んでホルセムを見上げている。
蒼味の強い銀灰色の虹彩に、金色の舟のような三日月を浮かべた、稀有 で特徴的な眸。トゥト神の加護の証とされる〈月の眸〉が、薄闇の中で、ホルセムをきつく睨 み据 えていた。
「お、まえ……わたしに、何をするつもり、だ?」
トゥアルセティスの声は、夜の静寂 に低く冷たく響く。ホルセムを責めるような調子だった。
ホルセムは蔑 む眼差しで叔父を見下ろした。
「愚問だな、叔父上。いや、寝所 では敢 えて、我が王妃となるべき者と言うべきかな……トゥアルセティス。――先程も言っただろう? 王の妃 としての務めを、早々に果たしてもらおう、と。それだけのことだ」
はは、と、敢えて嘲 るような笑い声と共に言った。
そして、相手の両手を縛 めたまま、いたぶるつもりでその首筋のやわい肌にくちびるを寄せた。
ちゅ、と、故意に音を立ててそここに口づけ、それから弄 るように、ねっとりと舐めあげる。
「っ」
トゥアルセティスは息をつまらせ、逃れようと首をのけぞらせる。信じられないものを見るような眼差しでホルセムを見た。
「ホルセム、おまえ……正気か。わたしは……おまえの父を殺 め、玉座まで奪った男だ。それをおまえは……抱く、と……?」
「はっ、だからこそだ!」
ホルセムは身を起こして、吐 き棄 てるように言った。凍てついた侮蔑の眼差しを叔父に向ける。
「〈セクヘム〉」
短く唱えるのは、力ある言葉、魔術の呪文だ。相手の動きを封じるためのものである。ケメト王家の血筋に連なるホルセムは、すべての王族がそうであるように、わずかとはいえ魔術の心得があった。
ホルセムの唱えた言葉に反応して現れたのは、光の縄である。寝台の天蓋 を支える左右の柱から伸びて、トゥアルセティスの両腕に、蛇のごとくからみついた。
「はっ、いい様 だな、叔父上」
冷酷に笑ったホルセムは、今度はトゥアルセティスの肚 のあたりに馬乗りになった。
「きさまは我が父の仇 。本来なら、王者の剣 アンクラトスで一千回貫いてやっても足りないぐらいだ。だが、その憎んでも憎みきれぬ相手を、俺は、処罰することも許されない。それどころか、神々はおまえを王妃に迎えよとまでいう。ならば……」
憎々しげに言いながら、腰に佩 いた剣に右手を伸ばす。すらりと鞘 を払って、剣身を顕 わにした。だが、鋭い切っ先を相手に向けることはなく、むしろ、自らの左手の親指を皮膚をすっと斬り裂いた。
つぅ、と、赤い血がホルセムの蜂蜜色の肌を伝う。
「ホルセム……何、を……?」
剣を置いたホルセムは、相手の問いには答えないまま、傷のついた指を叔父の唇に押し付けた。口中に無理やり突っ込むと、トゥアルセティスが苦しげに眉を寄せる。
「ぅ、ん……っ」
「呑め」
短く命じる。
「俺の血を呑め」
しばらく抵抗したトゥアルセティスだったが、しかし、口の中を好きざま蹂躙 する指に堪 えきれなくなったのか、やがて、こくりとちいさく喉を動かした。
「はは、呑んだな、叔父上」
ホルセムは口角と持ち上げる。
「〈イレト〉」
短く呪文を唱えた刹那、トゥアルセティスが大きく目を瞠 った。
「……ぁ……っ」
ひく、と、その細い身体がちいさくふるえる。ホルセムは、はははは、と、乾いた嗤 いを漏らした。
王者の剣と、王の血と、そして魅了の魔術。もたらされるのは、王への服従、そして、強力な催淫効果だ。血の主に逆らえず、その身を、精を、欲して已 まなくなるのだという。悪趣味極 る呪術だった。
「きさまの心臓に剣 を突き立てることが許されないというなら、かわりに……我が身の剣で、きさまをさんざんに貫いてやろう。せめて、最上級の辱 めを、きさまに」
ホルセムは、先程玉座の間を後にするときにも言った言葉を、再び叔父に向かって冷酷に言い放った。
対立する神と神とが、勝負を決める手段として同衾する。ケメト神話にはそんな場面がある。
その際、どんな手段を使っても、相手の体内に精を注いだ者が勝者なのだ。体内に精を注がれることは敗北を意味した。神話では、そうして屈服させられた者が、時に、注ぎ込まれた精から新たな神を生じさせることもあった。
とにかく、勝負としての同衾において、身の内に相手の精を受けさせられることは、最も屈辱的な敗北となる。トゥアルセティスの誅殺が許されないというのなら、かわりにこの逆賊の身を凌蹂 し、征服し、敗者の絶望を味わわせてやる。
それが、いまホルセムにできる、せめてもの復讐だった。
「俺に犯され、恥辱にまみれるがいい……裏切り者の簒奪者め」
ホルセムは吐き棄てるように言うと、自らの下半身を覆う腰布をほどいた。
そこですでに隆々と立ち上がって存在を主張する兇悪な肉茎を目にしてか、トゥアルセティスの顔が蒼褪める。この先に待ち受ける凌辱への恐怖にくちびるをわななかせる相手を前に、ホルセムは早くも溜飲が下がる想いだった。
ホルセムはトゥアルセティスの着ているものに手をかける。
上ケメトでは、身分を問わず、男たちは腰から下だけを布で覆って上半身は肌を顕わにしていることが多かったし、王族や神官であれば、そこに腕輪や胸飾りなどを直接つけるのが普通だった。
だが、下ケメトは違った。王族や神官ともなれば、男性でも、大きな布を巻き付けて、肩や腰で留める長衣姿の者が多い。
上下ケメトが統一され、統一王家の一員となっていたトゥアルセティスだったが、その恰好はずっと下ケメト風を改めていなかった。胸元も肢も、いつもやわらかな布に覆われ、見えることがなかった。
その衣を剥いでしまおうと、宝石があしらわれた肩の留め飾り外そうと手を伸ばす。叔父ははっとして身を引こうとしたが、逃がすものか、と、ホルセムは留め金に手をかけた。そのときだ。
「……服を脱ぐ、必要が?」
ふいに、トゥアルセティスが嘲笑するような声を上げた。
「ホルセム、我が甥どの。おまえは、わたしに恥辱を与えるつもりだと言ったね。それなのに……ご丁寧に、愛撫でもほどこしてくれるつもりなの?」
口許にはホルセムを嘲弄するような笑みが浮かんでいる。
「なっ」
ホルセムは頭にカッと血がのぼるのを感じた。
が、その感情をぐっと抑える。
こんなものは安い挑発だ。叔父は強がっているだけ。いまこのときホルセムは、トゥアルセティスに対して圧倒的に優位なのだ。
そう思って、ホルセムは敢えて顔にやさしげな笑みを浮かべた。留め飾りに触れていた手をとめ、トゥアルセティスの頬を撫でる。
「もしや叔父上は、こういうふうにされるほうがお好みか?」
今度はこちらが嘲弄するように口にして、トゥアルセティスの纏 う長衣の裾をたくし上げ、下半身だけをあらわにした。
たしかに、罰として犯すだけなら、これで十分ではないか。自分たちは決して睦 みあうわけではないのだ。
普段は隠れている白い下肢が、ホルセムの目前にすっかり曝 されていた。下肢をあらわに剥 かれたトゥアルセティスは、くちびるを噛んで身を捩ろうとする。
だが、腕を戒める魔術のために、肌を隠すには至らなかった。
ホルセムは、叔父の白く輝く肌を前に、思わずこくりと喉を鳴らした。その肌は、大河イテロの注ぐ先に広がる蒼い海の、その底に眠る貝のからとれる真珠という宝石のようだ。
自分が昂奮しているのがわかる。
このうつくしいものを、自分はいまから支配する。屈服させる。父王の仇に、せめて、報いることができる。だからだ。
自分の身に熱が溜まっていく理由、はじめて覚える種類の昂りの理由を、ホルセムはそんなふうに理解した。
トゥアルセティスの膝に手をかけ、割りひらき、その間に腰を進める。
「っ……ホル、セ、ム……よせ、っ」
最後の悪あがきのように、トゥアルセティスはこちらを蹴とばそうと暴れた。その肢をホルセムは逆に掴み、己の屹立を叔父の肢のあわいに押し付ける。もちろんというべきか、そこは乾いていて、すこしの潤 みもない。
「あぁ、そうだ。香油くらいは使ってやろう。あまりきつくては、俺も楽しめないだろうからな」
ホルセムは用意されていたちいさな壺を手に取って、中のとろりとした液体を、いま密着させている己と叔父との下肢にたっぷり垂らした。ぬるぬる、と、それを塗りこめる。指に纏 わせて、トゥアルセティスの後ろの莟 に無造作に差し込んだ。
「っ、ぅ」
トゥアルセティスが苦しげに呻 いた。だが、ホルセムは気にせず、ぬくぬく、と、容赦なく抜き差しする。香油に濡れて、そこがすこし弛 んだとみるや、二本に増やしてさらに弄 った。
指を三本にする頃には、ぬちゃぬちゃ、と、湿った淫靡な音が響くようになっている。
叔父は唇を噛みしめ、苦しげに顔を歪めていた。
それでもときおり、その口からは、溜まりかねたように熱い吐息が漏れてくる。さきほどかけた催淫の魔術は、たしかに効果があるようだ。トゥアルセティスの下肢のあわいでは、ゆるく起ちあがり、芯を持った花茎が、先端からとろりと蜜をこぼしていた。
「ははっ、己が弑した王の子に組み敷かれて感じるとは。いいざまだな、トゥアルセティス。だが……本番はこれからだ」
ホルセムは低く宣告し、トゥアルセティスの後ろを弄っていた指を引き抜いた。
「っ、ぅ」
トゥアルセティスが、ひくん、と、ちいさく身を跳ねさせる。その敏感な反応を笑いつつ、今度はそこに己の張り詰めた怒張を押し当てた。
香油でぬめるそこに照準を合わせて、ぐ、と、腰を前に突き出す。
「っ……や、め……ぁ、ぁ、ホルセ、ム……」
ずる、ず、と、ホルセムの熱はトゥアルセティスの肉のうちに沈んでいく。呑まれていく。
「ぅ、っ……っ」
半ばほどまで呑ませたところで、ホルセムはいったん動きを止めた。圧 し拉 がれて呻 く叔父の顔を見下ろす。
「トゥアルセティス」
敢えて、ごくやさしげに名を呼んだ。いっそそれが嘲弄 になるように、だ。
トゥアルセティスは苦しげに眉を顰 めている。くちびるを噛み、ホルセムから顔を背けて、必死で苦悶に堪えていた。
「はは、本当にいいざまだ、叔父上」
ホルセムは笑って言うと、相手の腰を抱え直す。相手の細い身を撓 めるようにしながら、一気に体重をかけた。
長く太いホルセムの兇器が、ずぶりと容赦なく奥まで這入 りこみ、トゥアルセティスの身を深々と貫いた。
「ぅ、ああぁあぁ……っ!」
そのときはじめて、それまでくちびるを噛んでこらえ、呻きを漏らすばかりだったトゥアルセティスが、堪りかねたように声をあげた。
ホルセムは間髪を入れず、激しく腰を使う。内壁を擦 り立て、とちゅ、とちゅん、と、幾度も容赦なく奥を抉 った。
「ひ、ぃっ、あ、あ、んっ」
ホルセムが律動するのにあわせて、トゥアルセティスの唇からは喘ぎが漏れる。それがしだいに、あまったるく濡れた響きを帯びてくる。
ひっきりなしに漏れる嬌声 。自分のものに貫かれ、身も世もなく喘ぐ叔父の姿。それは、ホルセムを満たし、恍惚 とさせた。
「叔父上っ」
昂奮で息が上がる。
「トゥアルセティス」
「あ、んっ、あぁ、あっ」
「ははっ、ずいぶんと、善さそうだ。奥を突くたび、中がぎゅうぎゅう俺を締め付けてくる。気持ち良いのだろう、叔父上?」
「っ、ちがっ、こんな、の」
「ちがうものか。ここも泣いて喜んでいる」
ホルセムは、トゥアルセティスの花茎に手を伸ばし、ゆるゆると扱 いた。突然の直截な刺激に、トゥアルセティスの身がびくびくと跳ねる。
「も、あぁっ、もう、よせっ、よしてっ、やっ、ぁっ、あ、あぁっ」
見下ろす〈月の眸〉は熱っぽく潤んでいる。ホルセムはますます昂奮し、トゥアルセティスを寝台に圧しつけて、更に強く責め立てた。
快感に翻弄されるのを嫌がってか、トゥアルセティスが頭 を振る。褥 に散った銀の髪がうねる様は、まるで夜空に横たわる天の川のようだった。
「俺に犯され、善 がらされて、口惜 しいか。苦しいか」
「っ、ぅ」
「だが、もっとだ、叔父上。もっと、もっと苦しめ。もっと口惜しがれ、トゥアルセティス。きさまが屈辱に塗れてこそ……俺にとっての、復讐がかなう」
「ぅ、うぅ、ぅ」
ホルセムが憎々しげに吐き棄てて奥を激しく突くと、ついにうつくしい眸からほろりと涙がこぼれ落ちた。
泣き濡れた叔父の姿を前に、ホルセムは喉を鳴らす。頬を伝った水滴を気紛れに舐めとってみると、腰の奥にずくりと熱が溜まるのを感じた。
「っ」
吐精を遂げようと、ホルセムはトゥアルセティスを掻き抱いた。
「く、ぅ……っ、出す、ぞ」
「っ、やめっ」
「う、うぅっ」
抉るように押し込み、低く唸 りながら、最奥に熱い迸 りを叩きつける。ホルセムは、塗りこめるように、残滓までをたっぷりと相手の体内に注ぎつくした。
「はは、はははっ!」
これでホルセムが勝者だ。トゥアルセティスはホルセムに屈服させられたのだ。気分が良い。
「……ぁ……ぁ……っ」
ホルセムの精を身の内に受けたトゥアルセティスは、こちらの身体の下で、呆然としていた。
自分ですら触れたことのないだろう場所を他者に明け渡し、いたぶられ、あまつさえ体液で穢されたのだ。信じられないのだろう。信じたくないのかもしれない。ぬと、と、抜き取って身を離すときにはかすかにふるえたが、あとは瞬きも忘れたように、ぼんやりと濡れた〈月の眸〉を虚空へと向けていた。
「トゥアルセティス」
ホルセムは涙の後も乾かない叔父の頬にそっと手を添えた。
「復讐の味はどうだ、叔父上? ん?」
ホルセムに抱かれて、焼けつくばかりの屈辱を覚えているだろうトゥアルセティスの心中を思えば、ホルセムはせいせいした気分になる。だが一方で、まだ足りない、と、そんな昏 い気持ちも腹の底で蜷局 を巻いていた。
冷たい眼差しで、トゥアルセティスを見下ろした。
「神託があるからな。きさまを殺しはしない。だが、叔父上……俺の憎しみが、この程度でおさまったと思うなよ」
仕草だけはやさしくトゥアルセティスの頬を撫でながら、ホルセムは低く呟いたその刹那、トゥアルセティスが神秘的な〈月の眸〉をわずかにこちらに向けた。
その眼差しの奥に、一瞬、いたわりや悲しみが綯 い交 ぜになったような感情が浮かんだ気がする。ホルセムは、はっと息を呑んだ。
いまの表情はいったい何なのだ。
だが、ホルセムが叔父を覗き込んだときには、相手は白い瞼を伏せてしまっていた。過ぎた交情のために気を失ってしまったらしい。
ホルセムは頭 を振った。きっと気のせいだ、と、己に言い聞かせるように心中に呟いて、てのひらを握りこむ。
気のせいに違いない。それ以外にはありえない――……なぜなら、トゥアルセティスはホルセムを裏切った。それこそ疑うべくもない事実なのだ。
「くそっ」
ホルセムは夜の静寂 の中でひとり呻くように吐き棄てた。
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