3 / 21

第2話 高校_入学式2

 入学式が終わり、新入生たちはそれぞれの教室へ戻ってきた。  まだ緊張の残る空気の中、担任が出席簿を閉じる。 「じゃあ今日は簡単に自己紹介だけしてもらう。」  教室の前から順番に名前と出身中学校、それから一言。  ありきたりな自己紹介が続いていく。 「橘 湊です。葉山中学校から来ました。  好きなことは読書です。  よろしくお願いします。」  短く頭を下げる。  拍手が起こり、橘は席へ戻った。  周囲はほとんどが内部進学生だった。  小学校からこの学園へ通っている生徒たち。  自己紹介の途中でも、 「あ、また同じクラスだ。」 「よろしく。」  そんな声が自然と飛び交う。 (やっぱり、みんな知り合いなんだな。)  橘は改めて、自分だけが外から入ってきたことを実感した。  その後も自己紹介は続く。 「九条景臣。」  教室が静かになる。  壇上で新入生代表を務めていた男子生徒だった。 「よろしく。」  それだけ。  拍手だけが静かに響く。  担任は苦笑しながら言った。 「以上です。」  教室から小さな笑いが漏れる。  橘も思わず笑った。 (本当にそれだけなんだ。)  ホームルームが終わると、一気に教室が賑やかになった。  席を立つ者。  久しぶりに再会した友人と話し込む者。  教室中にいくつもの輪ができていく。  橘は窓際からその様子を眺めていた。  誰かに話しかけようかとも思ったが、ちょうどいいきっかけが見つからない。  そんな時だった。 「九条。」  男子生徒が数人集まる。 「今日、生徒会ある?」 「ああ。」 「もう仕事あるとか大変だな。」 「新入生代表、お疲れ。」  九条は短く返事をしながら鞄を持ち上げる。  笑いもしない。  必要な言葉だけ返し、自然と会話が終わっていく。 (人気あるんだな。)  それくらいの印象だった。  橘は教科書を鞄へしまい、席を立つ。  廊下へ出ようとした時、 「あ。」  鞄が机の角に引っ掛かった。  教科書が一冊、床へ滑り落ちる。  拾おうと手を伸ばした瞬間、その教科書が視界から消えた。 「……。」  顔を上げる。  九条だった。  教科書を拾い、そのまま橘へ差し出す。 「あ、ありがとう。」 「ああ。」  それだけ言うと、九条は教室を出て行った。  橘は受け取った教科書を鞄へしまう。 (今日で二回目か。)  入学式の帰り道。  そして今。  偶然と言えば偶然。  ただ、親切な人なのだろう。  そう思うことにした。  窓の外では、春の風が校庭の桜を揺らしていた。

ともだちにシェアしよう!