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第5話 高1_体育祭準備3
体育祭準備の日から、一年生の間で妙な噂が広がり始めた。
「誰なんだろ。」
「見たことない。」
「同じクラスらしいよ。」
「顔見た?」
「写真探してる。」
話題は一人の一年生男子だった。
名前だけは分かっている。
橘。
それ以外は何も分からない。
だからこそ、興味だけが膨らんでいく。
◇
学校内限定のSNSでも、その話題は続いていた。
『どれ?』
『見た?』
『まだ。』
『何で九条様が手伝ってるの?』
『意味分かんない。』
『あの一年、誰?』
投稿が増えるたび、コメントも増えていく。
誰も橘本人には興味がなかった。
興味があるのは、
**九条が関わった一年生。**
それだけだった。
◇
ところが、その日の夕方。
『……消えた。』
『消えた。』
『全部消えた。』
投稿が次々と削除されていく。
写真も。
コメントも。
話題も。
まるで最初から存在しなかったかのように消えていった。
◇
翌日。
新しい噂だけが流れる。
『九条が怒ったらしい。』
それだけだった。
誰が言い始めたのかも分からない。
本当に怒ったのかも分からない。
理由も分からない。
確認した者もいない。
それでも十分だった。
「……やめとくか。」
「うん。」
「やめよう。」
話題はそこで終わる。
九条に関わることだけは、余計に詮索しない。
それがこの学校では一番安全だと、誰もが知っていた。
◇
その頃。
当の本人は何も知らない。
昼休み。
橘は購買で買ったパンを頬張っていた。
「今日の焼きそばパン、当たりだった。」
「本当?」
「一口食べる?」
「いいの?」
友人と笑いながらパンを分け合う。
その様子を、教室のあちこちから視線が追っていた。
ちらり。
また、ちらり。
橘はまったく気付かない。
(あいつか。)
(普通だな。)
(……普通だ。)
誰もが同じ感想を抱く。
もっと特別な人間だと思っていた。
九条が関わるくらいなのだから。
何かあるはずだと。
だが。
授業では真面目にノートを取り。
友人と笑い。
昼休みにはパンを食べる。
どこにでもいる一年生だった。
「やっぱ普通じゃない?」
「普通。」
「普通だよな。」
だから余計に分からない。
普通の一年生に。
どうして九条が関わったのか。
その理由だけは、誰にも分からなかった。
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