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第6話 高1_冬休み

 冬休み。  父親に連れられ、橘は年末の社交パーティーへ足を運んでいた。  仕事関係者が集まる立食形式の会場。  静かな音楽と、グラスが触れ合う澄んだ音が空間を満たしている。  父親の少し後ろに立ちながら、橘は慣れない空気に小さく息を整えた。 (こういう場、久しぶりだな)  父親は知人を見つけるたびに挨拶へ向かい、橘はその隣で静かに頭を下げる。  そんな時だった。  視界の端に、見覚えのある姿が映る。 (……九条さん。)  思わず足を止めた。  同じクラスの九条景臣。  学校以外で会うのは初めてだった。  体育祭準備で脚立を支えてもらった時。  授業中のグループワークで必要なやり取りをした時。  話したのは、その程度しかない。  クラスでは、遠くから見かけることの方が圧倒的に多かった。  それでも九条は目立つ。  教室でも。  廊下でも。  生徒会でも。  そして今、この社交パーティーでも。 (やっぱり目立つ人なんだな。)  九条の周りには年配の関係者たちが集まっていた。  誰かが話し始めれば九条が答え、別の誰かが話を引き継ぐ。  落ち着いた物腰で、必要な時だけ言葉を添え、自然と会話が流れていく。  橘はその様子を眺める。 (すごいな。)  学校とはまるで違う場所なのに。  そこでも九条は自然に人の輪の中心にいる。  まるで最初からそこにいることが当たり前のようだった。  橘は少しだけ距離を置いたまま、その場を離れようとする。  その時だった。 「橘。」  不意に名前を呼ばれた。  顔を上げる。  九条だった。  さっきまで年配の人たちと話していたはずなのに、いつの間にか橘の前まで歩いて来ている。 「こんばんは。」  橘は少し驚きながら頭を下げた。 「ああ。」  九条も短く頷く。 「来ていたのか。」 「父に連れられて。」 「そうか。」  会話はそれだけだった。  それでも九条はすぐには戻らない。  ほんの数秒、橘の前に立ったまま周囲へ視線を向ける。  すると少し離れた場所から、 「九条君。」  年配の男性が声を掛けた。 「はい。」  九条は橘へ一度だけ視線を戻し、 「失礼する。」  そう言って再び人の輪へ戻っていく。  橘はその背中を見送った。 (……わざわざ来てくれたんだ。)  ただ挨拶をしただけ。  それだけなのに、不思議と少しだけ嬉しかった。 「知り合いか。」  父親が小声で尋ねる。 「同じクラスの人。」  橘は静かに答えた。  父親は九条の背中を見ながら、小さく頷く。 「学校でもああいう感じなのか。」 「……うん。目立つ人。」  それが橘の知る九条だった。  学校でも。  学校の外でも。  自然と人の中心にいる人。  そんな九条が、自分のところまで歩いてきて挨拶をした。  その事実だけが、橘の胸に静かに残っていた。

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