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第7話 高1_図書館
冬休みが明けた。
学校はいつもの日常を取り戻し、昼休みになれば廊下には生徒たちの話し声が響く。
橘は弁当を食べ終えると、自然と図書館へ向かった。
特に理由はない。
静かだから。
落ち着くから。
それだけだった。
窓際の席に腰を下ろし、本を開く。
紙をめくる音だけが静かに響く。
文字を追いながらも、どこか集中しきれない自分がいた。
(……今日は来るのかな)
ふと浮かんだ考えに、橘はページをめくる手を止めそうになる。
(……いや。)
自分で否定する。
以前なら、そんなことは考えもしなかった。
図書館は一人で過ごす場所だった。
誰が来るかなんて気にしたことはない。
それなのに。
最近は少し違う。
静かな廊下から足音が聞こえた。
橘は顔を上げない。
それでも分かる。
規則正しい足音。
迷いのない歩幅。
数秒後、本棚の向こうを人影が横切る。
九条だった。
いつものように図書館へ入り、そのまま奥へ向かう。
橘は本に視線を落としたまま、小さく息を吐いた。
(やっぱり。)
そう思った自分に、少しだけ驚く。
九条は席へ着き、本を開く。
ページをめくる音だけが静かに重なった。
しばらくして、橘は何気なく視線を動かす。
(……あれ。)
以前より近い。
同じ図書館。
同じ窓際。
けれど、座る位置が少しずつ近付いているような気がした。
(偶然か。)
そう思う。
図書館なのだから、空いている席へ座るだけだ。
それだけの話だ。
でも。
(最近、こういうこと多くないか。)
思い返してみる。
昼休み。
放課後。
図書館へ来る時間。
九条が現れる時間。
座る席。
一つ一つは偶然で説明できる。
それでも。
同じことが何度も続くと、少しだけ引っかかった。
(……考えすぎか。)
橘は苦笑して、本へ視線を戻す。
気にするようなことではない。
そう結論づけるには、まだ十分だった。
ページをめくる。
少し離れた場所で、もう一枚ページがめくられる音がした。
静かな図書館。
誰も話さない。
何も起きない。
ただ、本を読む時間だけが流れていく。
それなのに。
橘はまた、小さく思ってしまう。
(今日も同じだ。)
昨日も。
一昨日も。
冬休み前も。
図書館へ来ると、いつの間にか九条がいる。
偶然。
そう言えば、それで終わる。
けれど。
その言葉だけでは、少しだけ説明しきれない気がしていた。
橘はページを閉じることなく、小さく息をつく。
(……いつまで続くんだろう。)
答えは出ない。
出すつもりもない。
ただ一つだけ。
"偶然"という言葉が、少しだけ頼りなくなっていた。
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