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第8話 高1_図書館2

 放課後の生徒会室。  資料を抱えた副会長が席に着くと、机の上を見回した。 「……終わってる。」  各机には担当ごとに書類が積まれている。  付箋には短い指示。  提出先。  期限。  確認事項。  どれも九条の字だった。 「今日も抜けがないね。」  会計が感心したように呟く。  書記が資料を手に取り、小さく頷いた。 「これならすぐ始められる。」  誰が何をするかまで、すべて決められている。  だから、生徒会の仕事は滞らない。  問題は一つだけだった。 「……九条は?」  副会長が部屋を見回す。  返事はない。 「さっきまでいたよな?」 「いた。」 「資料置いて、そのまま出た。」  全員が自然と扉を見る。  開かない。 「珍しいな。」  九条は、生徒会室を空ける時は必ず一言残す。  それが当たり前だった。  だから誰も深く気にしていなかった。  最初の数分は。  十分。  二十分。  三十分。 「……戻ってこないな。」  副会長が腕時計を見る。 「帰った?」  会計の言葉に、全員が同時に首を横へ振った。 「九条が?」 「ありえない。」  仕事を残して帰る人間ではない。  だが。  仕事は残っていない。  机の上に並ぶ資料が、その事実を物語っていた。 「ちょっと見てくる。」  書記が廊下へ出る。  戻ってきたのは数分後だった。 「いない。」 「どこ行ったんだ?」  沈黙が落ちる。  その時だった。 「あ。」  会計が小さく声を漏らす。 「最近さ。」 「ん?」 「図書館、行ってない?」  副会長が顔を上げる。 「……あ。」  言われてみれば。  ここ最近、何度か見かけている。  昼休み。  図書館。 「まさか。」  三人は顔を見合わせ、そのまま図書館へ向かった。      ◇  夕方の図書館は静かだった。  窓際。  いつもの席。  そこに九条はいた。  本を開き、静かにページをめくっている。  副会長たちは思わず足を止めた。 「……え。」  会計が思わず声を漏らす。 「何でここ?」  九条が顔を上げる。 「どうした。」 「いや、それはこっちの台詞。」  副会長が呆れたように言う。 「生徒会室は?」 「仕事は終わっている。」 「終わってるけど。」 「だから来た。」  あまりにも当然の答えだった。  三人は顔を見合わせる。  言っていることは間違っていない。  仕事は終わっている。  だから、どこにいても構わない。  理屈は通っている。  でも。 (何で図書館なんだ。)  誰も口にはしない。  その時、会計の視線が少し先へ向く。 「あれ。」  少し離れた窓際。  一人の男子生徒が本を読んでいた。 「……橘。」  小さく呟く。  副会長もその先を見る。 「同じクラスの。」  九条は何も言わない。  ただページをめくる。  静かな時間だけが流れる。  生徒会の三人は小声で話す。 「最近。」 「ああ。」 「橘がいる時、九条もいること多くないか?」  一瞬、沈黙が落ちた。 「……いや。」  副会長が苦笑する。 「さすがに考えすぎだろ。」 「だよな。」 「偶然だよな。」  三人とも笑った。  けれど。  誰も心から笑えてはいなかった。      ◇  生徒会室へ戻る途中。  副会長がぽつりと呟く。 「九条って。」 「ん?」 「行動、変えるタイプだったか?」  会計は少し考える。 「いや。」  書記も即座に首を振る。 「一度決めたこと、ほとんど変えない。」  副会長は廊下の先を見つめる。 「……じゃあ、今の何だ?」  答えられる者はいなかった。

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