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第12話 高1_年度末試験4

 期末試験まで、あと三日。  放課後の応接室は、今日も静かだった。  橘は最後の一問を書き終え、ゆっくりとペンを置く。  横では九条も参考書を閉じた。  部屋に紙をめくる音が消える。  静かだった。  橘は自分のノートを開き直す。  数学。  英語。  現代文。  九条に教わったところには、小さな書き込みが並んでいる。  もう一度見返してみても、引っかかる場所はなかった。 (……終わった。)  思わず小さく息を吐く。  九条も同じようにノートへ目を落とし、確認するように数ページめくる。  そして閉じた。 「ああ。」  短い一言。  それだけで、全部終わったことが分かった。  期末試験範囲。  応接室で続けてきた勉強。  一通り終わった。  橘はノートを閉じる。 「これで、大丈夫かな。」 「問題ない。」  即答だった。  それ以上、付け足すこともない。  橘は少し笑う。 「九条が言うなら安心だ。」  九条は特に反応せず、机の上を整え始めた。  鉛筆を揃え、参考書を閉じ、鞄へ入れる。  いつもと同じ動作。  なのに今日は、その一つ一つが「終わり」の合図のように見えた。 (……これで。)  橘はふと考える。 (勉強、終わりなんだよな。)  そう思った瞬間、自分でも少しだけ不思議だった。  終わって安心するはずなのに、胸のどこかに小さな空白が残る。  理由は分からない。  ただ、いつもの放課後が今日で一区切りになることだけは理解できた。  沈黙が続く。  帰るには自然な時間だった。  それでも、どちらもすぐには席を立たなかった。 「……。」  橘は閉じたノートへ視線を落とす。  九条の書いた数式や短い補足。  どれも必要最低限なのに、不思議なくらい分かりやすい。  試験が終わっても、このノートは何度も開くだろう。  そんな気がした。 「帰る。」  九条が静かに立ち上がる。 「あ、うん。」  橘も慌てて鞄を持つ。  二人で応接室を出る。  廊下には、まだ試験勉強を続ける生徒たちの姿があった。 「終わった?」 「うん。」 「いいなあ。」  そんな会話が聞こえてくる。  二人はその横を歩いていく。  少し進いたところで、橘が何気なく口を開いた。 「試験が終わったらさ。」  九条が視線だけ向ける。 「応接室、使わなくなるのかな。」  九条は少しだけ考えた。 「勉強は終わる。」 「……そうだよね。」  その返事は当たり前だった。  橘も納得する。  勉強をするために、この部屋を使っていた。  なら、勉強が終われば使う理由もなくなる。  理屈は簡単だった。  それなのに。 (なんか、少し寂しいな。)  そんなことを思った自分に、橘は首をかしげる。  応接室が好きなわけじゃない。  勉強が好きなわけでもない。  ただ、毎日ここへ来ることが、いつの間にか放課後の当たり前になっていただけだった。  九条は何も言わず歩いている。  その横を歩きながら、橘は閉じたノートを抱え直した。  試験までは、あと三日。  そして、その先の放課後は、まだ誰も知らなかった。

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