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第13話 高1_年度末試験5
放課後の応接室。
期末試験まで、あと二日。
復習をするだけで、いつもより少しだけ早く、その日の勉強が終わった。
橘はペンを置き、大きく伸びをする。
「終わったぁ……。」
九条は参考書を閉じ、机の上を静かに整えていた。
少しだけ余った時間。
いつもなら、そのまま帰るだけだった。
橘は閉じたノートを眺めながら、ふと思い出したように口を開く。
「そういえばさ。」
九条が顔を上げる。
「何だ。」
「今日、クラスでこのノートの話になったんだ。」
九条は黙って続きを待つ。
「みんな、『九条のノートが見てみたい』って。」
そう言って橘は笑う。
「俺も、そういえば見たことないなって思って。」
九条は何も言わず、自分の鞄から一冊のノートを取り出した。
そのまま橘へ差し出す。
「見るか。」
「いいの?」
「ああ。」
橘は受け取り、表紙を開く。
一ページ目。
黒板の内容が丁寧にまとめられている。
二ページ目。
同じように板書。
三ページ目も。
四ページ目も。
きれいな字で整然と書かれているだけだった。
九条が自分のノートへ書き込むような補足も、解説もない。
「……あれ?」
橘は何枚かページをめくる。
最後まで見ても変わらない。
思わず笑ってしまった。
「これじゃ、みんなの期待には応えられないね。」
「ああ。」
九条は淡々と答える。
「必要ない。」
橘は九条へノートを返した。
「俺のノートには結構書いてくれてるから、もっと何かあるのかと思ってた。」
「必要だった。」
短い返事。
橘は首をかしげる。
「そっか。」
それ以上は聞かなかった。
自分には必要だったから書き込んでくれた。
ただ、それだけなのだろう。
◇
翌日。
昼休み。
橘が席で昼食を食べていると、クラスメイトが近寄ってきた。
「橘。」
「ん?」
「昨日さ、九条のノート見たんだって?」
「見たよ。」
その一言で、周囲の何人かまで振り向いた。
「どうだった?」
橘は少し考えてから笑う。
「普通。」
「普通?」
「板書がすごくきれいだった。」
一瞬、教室が静まり返る。
「……それだけ?」
「うん。」
「書き込みとか。」
「なかった。」
「解説は?」
「なかったよ。」
今度は別の意味でざわつく。
「え?」
「じゃあ何で橘のノートにはあんなに書いてあるんだ?」
「知らない。」
橘は正直に答える。
「教えてもらってる時に、その場で書いてくれただけだから。」
「……。」
誰も納得していない顔だった。
「でもさ。」
橘は笑いながら付け加える。
「期待しすぎだったね。
九条のノートなら、すごい秘密でもあるのかと思ってた。」
教室のあちこちで、小さく笑いが漏れる。
その一方で、数人は真剣な顔で何かを考え込んでいた。
「つまり……。」
「橘のノートにしか書いてないってこと?」
「え、それ。」
「特別じゃない?」
ひそひそと声が広がっていく。
橘はパンをかじりながら、不思議そうに首をかしげた。
「そんな大げさなことかな。」
「いや、大げさだろ……。」
誰かが小さく呟く。
だが、その理由を橘は最後まで理解できなかった。
そして、その日の放課後も。
橘はいつも通り応接室へ向かい、九条は当然のようにそこで待っていた。
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