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第14話 高1_年度末試験6
応接室には、いつもと変わらない静けさがあった。
二つの勉強机。
向かい合わせでも、横並びでもない。
この部屋に運び込まれた、どこか不釣り合いな机が、今日もそのまま置かれている。
期末試験は終わった。
参考書も問題集も閉じられ、机の上には何冊かの本が並ぶだけだった。
◇
橘は椅子に座り、ぼんやりと窓の外を見る。
(……終わったんだよな)
試験勉強は終わった。
毎日ここへ来ていた理由も、もうない。
そう思っているのに。
今日も自分は、この部屋にいる。
◇
扉が静かに開いた。
九条が入ってくる。
いつもと変わらない足取りで、当然のようにもう一つの机へ向かう。
「来てたのか」
「うん」
短い会話。
それだけだった。
九条も本を開く。
部屋はまた静かになる。
ページをめくる音だけが、小さく響いた。
橘も持ってきた文庫本を開く。
勉強ではない。
ただ読むだけ。
それなのに、不思議と居心地は悪くなかった。
◇
しばらくして。
橘は本から顔を上げる。
九条は黙ったまま文字を追っている。
(……本当に読んでるだけだ)
教えるわけでもない。
問題を出すわけでもない。
ただ同じ部屋で本を読んでいる。
静かな時間が流れる。
その沈黙は気まずくない。
だからこそ、少しだけ不思議だった。
橘は何となく口を開いた。
「九条」
「何だ」
「……試験終わったのに、来たんだね」
九条は本から目を離さない。
「来てはいけないのか」
「いや、そうじゃなくて」
橘は少し笑う。
「俺も来てるけど」
それを聞いた九条は、それ以上何も言わなかった。
またページをめくる。
橘も本へ視線を戻す。
(……何か話すわけでもないんだな)
友達同士なら、もっと雑談をするのかもしれない。
でも自分たちは違う。
静かなまま。
それでも同じ部屋にいる。
ふと、橘は思う。
(ここ、来るのが普通になってたんだ)
試験前だから。
教えてもらうから。
最初はそんな理由だった。
でも今日は違う。
理由はもう終わっている。
それでも足は自然と応接室へ向いていた。
◇
九条が本を閉じる。
「帰る」
「うん」
橘も本を閉じた。
荷物をまとめながら、ぽつりと口を開く。
「また来てもいい?」
言ってから、自分でも少しだけ首をかしげる。
何を聞いているのだろうと思った。
勉強は終わったのに。
九条は短く答える。
「構わない」
それだけだった。
特別な許可でも、誘いでもない。
ただ事実を告げるような声音。
橘は小さく笑う。
「そっか」
それだけで十分だった。
◇
二人は並んで応接室を出る。
廊下へ出ると、それぞれ自然に靴を履く。
特別な約束はない。
次の日の予定も決めない。
それでも橘は、扉を振り返りながら思った。
(また来よう)
理由は、まだ自分でもよく分からなかった。
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