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第15話 高1_生徒会室

 期末テストが終わって数日。  放課後の校舎にも、ようやくいつもの空気が戻り始めていた。  生徒会室だけは違う。 「……終わらない」  机の上には書類が積み重なっている。  誰かが一枚終えれば、別の束が運ばれてくる。  副会長は静かに室内を見回した。  九条の机だけが、いつも通りだった。  提出書類はすべて整理済み。  確認印も押され、振り分けられた仕事は担当者ごとに机へ置かれている。  九条の仕事だけは、とうの昔に終わっていた。  問題は、その先だった。 「九条が振り分けるのはいいんだけどさ……」  会計が書類を抱えたまま苦笑する。 「振り分けられた俺たちが終わらないんだよ」 「今まで放課後ずっと九条いなかったからな」  書記も肩を落とす。  期末テスト前。  九条は放課後になると図書館へ向かい、その後は応接室で橘と勉強をしていた。  生徒会の仕事に支障は一切なかった。  放課後には各自の机へ、その日にやるべき書類が正確に置かれていたからだ。  だが、九条はそのまま図書館や応接室へ行ってしまう。  困ったときに聞こうにも、もういない。  結果。  分からない書類だけが少しずつ積み重なっていった。  副会長は山になった書類を見つめ、小さく息をつく。 「……仕方ない」  立ち上がる。 「橘を呼んできてくれ」 「橘…ですか?」 「ああ」 「でも、何で橘くんなんです?」  副会長は少しだけ笑った。 「橘が来れば、九条も来る」  一瞬、部屋が静かになる。 「……あ」 「そういうことか」 「確率は高い」  誰も否定しなかった。  期末前の数週間、それを何度も見てきたからだ。      ◇  放課後。  橘は教室を出たところで呼び止められた。 「橘くん」 「はい?」 「悪い、生徒会室まで来てもらえるか」 「俺ですか?」 「少しだけ手伝ってほしい」  理由はそれだけだった。  断る理由もなく、橘は頷く。      ◇  生徒会室の扉を開ける。 「失礼します」  机いっぱいに積まれた書類を見て、思わず目を丸くした。 「すごい量ですね……」 「ちょっとな」  副会長は苦笑しながら書類を一束渡す。 「これを学年ごとに分けてくれるだけで助かる」 「分かりました」  橘は席に座り、作業を始める。  その数分後。  静かに扉が開いた。  誰も見なくても分かる。 「九条」  室内の空気がわずかに変わる。  九条は生徒会室へ入り、最初に書類の山を見た。  次に、副会長を見る。 「……溜まったか」 「ああ」  副会長は苦笑した。 「お前の仕事は完璧なんだが、こっちが完璧じゃなかった」  九条は一度だけ頷く。  そして、橘を見た。 「そこ」 「え?」  橘の持っていた書類を一枚抜き取る。 「これはこっちだ」 「あ、違った」 「様式が別」 「なるほど」  九条は書類を戻す。 「左上の番号を見る」 「番号?」 「そこが同じなら同じ分類」 「分かった」  橘は素直に頷き、すぐに手を動かした。  その様子を見ていた会計が、小さく隣をつつく。 「…説明してる」 「本当だ……」 「俺ら最初に教わった記憶ないんだけど」 「ないな」  書記も苦笑する。 「九条って『違う』しか言わないもんな」 「番号まで教えてる」 「何で?」  誰も答えられない。  九条自身も、答えを持っていなかった。 「終わりました」  橘が書類を差し出す。  九条は一枚だけ確認する。 「問題ない」 「よかった」 「次はこれ」 「はい」  短いやり取りが続く。  副会長はその様子を見ながら、静かに口元を緩めた。 (やっぱり来た)  策は、思った以上にうまくいったらしい。  会計がぽつりと呟く。 「副会長」 「何だ」 「橘くん呼んだ理由、当たったね」 「半分な」 「半分?」 「人手も欲しかった」  一拍置いて、続ける。 「本命の、九条を呼び戻しも成功」  室内に小さな笑いが広がる。 「餌みたいに言わないでくださいよ」 「結果、来ただろ」 「……来ましたね」  誰も反論できなかった。  九条はそんな会話など耳に入っていないように、淡々と書類を確認している。  橘も隣で、教えられた通りに分類を続けていた。  本人たちは、いつも通り。  周りだけが、その「いつも通り」に少しずつ慣れ始めていた。

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