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第16話 高1_生徒会室2

 生徒会室へ顔を出すようになって、一週間ほどが過ぎた。  最初は書類を運ぶだけだった。  今では誰かが自然に声をかける。 「橘、その束お願い」 「はい」 「終わったらこっちも」 「分かりました」  橘は頷いて手を動かす。  特別な仕事ではない。  書類を並べ、回収し、印刷物を運ぶ。  それだけだ。  それだけなのに、生徒会室の空気は以前より慌ただしくなくなっていた。      ◇ 「……あれ?」  会計が首を傾げる。 「今日、もうここまで終わった?」 「早いな」  書記も書類をめくりながら頷く。 「前はこの時間でも机が埋まってたのに」 「仕事量は同じですよね?」 「むしろ増えてる」  誰も理由が分からない。  ただ、不思議なくらい滞らない。      ◇  橘はコピーした資料を机へ置く。 「これで大丈夫ですか?」  副会長が目を通す。 「ああ、ありがとう」  その一言だけで、また別の仕事へ移る。 (少しは役に立ててるのかな)  橘はそんなことを思う。  自分が書類を運ぶから。  人が動きやすくなったから。  だから仕事が進むのだろう、と。      ◇  一方、九条は新しい書類を見つめていた。 「副会長」 「何だ」 「この項目は重複している」  九条は一枚抜き取る。 「統合できる」 「……確かに」 「こっちもだ」  別の様式を並べる。 「記入欄が多い。必要なのは四項目」 「……残りは確認時に補えば十分」  副会長は少し考え、頷いた。 「やってみるか」 ◇  翌日。  新しい様式が配られた。 「何これ」 「見やすい」 「書く場所減ってる」 「え、終わるの早っ」  生徒会室のあちこちから驚いた声が上がる。      ◇  橘も新しい書類を手に取る。 「前より分かりやすいですね」 「そうだな」  九条は短く答える。  それだけだった。  橘は素直に感心する。 (九条って、こういうのも考えるんだ)  書きやすい。  迷わない。  自然と手が動く。      ◇ 「最近さ」  会計がぼそりと言った。 「書類、頭使わなくなったよな」 「分かる」  書記も頷く。 「前は読むだけで疲れてた」 「今は見れば分かる」 「九条が変えたんだろ?」 「たぶん」  副会長は黙って書類を閉じた。  その変化には気づいていた。  九条は様式を簡略化した。  だが、ただ簡略化したわけではない。  橘へ説明するときに使っていた順序。  橘が迷わなかった流れ。  それが、そのまま書類の形になっていた。  もちろん九条に自覚はない。  ただ、最も伝わりやすい形を選んだだけだった。      ◇ 「橘」 「はい」 「これは職員室」 「分かりました」  迷わず動く。  それを見た会計が苦笑する。 「橘くんも慣れたな」 「まだ全然です」 「いやいや」  書記が笑う。 「来た頃よりずっと早い」  橘は少し照れくさそうに笑った。 「九条が教えてくれるので」 「……だよな」  その一言で、二人は顔を見合わせる。 「そういえば」 「俺ら、一回もそんな教え方されたことないな」 「ない」 「『違う』で終わりだった」 「終わりだった」  二人は吹き出した。 「橘くんだけ説明書付きじゃん」 「ほんとだ」 「初心者モードだ」  近くで聞いていた副会長まで、小さく笑う。 「否定はできないな」  橘だけが事情が分からず首を傾げた。 「何ですか?」 「いや」  会計は笑いを堪えながら首を振る。 「気にしなくていい」 「?」  橘はよく分からないまま、また書類を運び始める。      ◇  九条は淡々と確認印を押していく。  橘が迷わず動く。  生徒会も以前より早く仕事を終えていく。  誰も気づかない。  橘は、自分が役に立っているから仕事が進んでいると思っている。  九条は、伝わりやすい形へ整え続けているだけだと思っている。  生徒会本部は、理由は分からないが仕事が楽になったと感じている。  同じ部屋にいながら、それぞれが少しずつ違う景色を見ていた。

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