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第19話 高1_生徒会室5
そのときだった。
「……何してるの?」
給湯室の入り口から、気の抜けた声が聞こえた。
一斉に振り返る。
「あ、会計」
現れたのは、会計だった。
紙コップを片手に、いつも通りどこかのんびりした表情をしている。
「何、この空気」
二年の補佐役が苦笑する。
「橘が、自分は部外者かもって言い出して」
「は?」
会計は橘を見た。
「それ本気?」
「いや、そういう意味じゃなくて」
橘は困ったように笑う。
「俺、生徒会に入ってないですし」
「ふーん」
会計は少しだけ考えるように視線を上げた。
それから、あっさりと言う。
「いなくなると普通に困るやつだけど」
給湯室が静かになった。
補佐役たちが一斉に会計を見る。
「いや、でも九条がいれば――」
橘が言いかけると、会計は軽く首を振った。
「九条は別枠。」
その一言で、全員が頷く。
「九条は全部回す人。
橘くんは、みんながついていけるようにしてる人。」
橘は目を瞬かせた。
「俺が……?」
「うん。」
会計は紙コップを持ち替えながら続ける。
「橘くんがいる日は、九条が説明するでしょ。
『ここはこう』『これはこういう理由』って。
いない日は?」
二年生が苦笑しながら答えた。
「承認。」
「差し戻し。」
「再提出。」
「終わり。」
「そう。」
会計はあっさり頷いた。
「だから、橘くんがいる日は、人間が理解できる。
いない日は、九条の処理速度。」
一年生が勢いよく身を乗り出す。
「それです!」
「まさにそれなんです!」
「だから助かってるんです!」
会計は少し笑った。
「本人だけ分かってないんだね。」
橘は苦笑するしかない。
「でも、それって俺がいるせいで遅くなってるってことじゃ……」
「違う。」
今度は会計が即答した。
「遅くなってるんじゃない。説明が増えてるだけ。
結果として、みんなが追いつける。」
それだけ言うと、紙コップを受け取りながら何気なく続けた。
「九条に共有しとく。」
一瞬、給湯室の空気が固まる。
「お願いします!」
補佐役たちが声を揃えた。
橘だけが慌てる。
「え、ちょっと待ってください!共有って何を――」
会計はもう給湯室を出ようとしていた。
「橘くんが変な勘違いしてるってこと。そのままだと面倒そうだし。」
あまりにも軽い口調だった。
「じゃ。」
ひらりと手を振って、生徒会室の方へ歩いていく。
橘はその背中を見送りながら、小さくため息をついた。
「……共有されるのか」
二年生が苦笑する。
「まあ、会計だからな」
「変に盛ったりはしないよ。」
一年生も安心したように笑った。
「むしろ一番そのまま伝えます。」
橘は紙コップを見つめる。
(俺がいると、九条は説明する。
それでみんなが助かる。)
さっき聞いた言葉が、ゆっくり胸の中で繰り返される。
(……そんなこと、本当にあるのかな)
まだ実感はない。
けれど、周りだけは疑っていなかった。
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