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第20話 高1_生徒会室6
放課後。
生徒会室には、紙をめくる乾いた音だけが静かに響いていた。
窓から差し込む西日が机を照らし、積み上がった書類の影を長く伸ばしている。
会計は書類を閉じると、九条の机へ歩いた。
「九条。」
呼びかけると、九条が視線だけを上げる。
「橘くんのこと。」
それだけで十分だった。
「さっき給湯室でさ。」
会計は気負いなく話し始める。
「橘くん、自分は部外者かもしれないって言ってた。」
九条は何も言わない。
「補佐のみんなが慌てて止めてたよ。橘くんがいる日は九条が説明してくれるから助かるって。
でも本人は、自分がいるせいでみんなの仕事が遅くなってるんじゃないかって勘違いしてた。」
そこで会計は肩をすくめる。
「違うって伝えといた。説明が増えてるだけだって。」
沈黙。
九条は机上の書類を一枚めくる。
それだけだった。
会計も続きを急がない。
やがて九条は短く答えた。
「理解した。」
「うん。」
会計はそれ以上何も言わず、自分の席へ戻っていった。
生徒会室は再び紙をめくる音だけになる。
九条の手は止まらない。
承認。
差し戻し。
再提出。
必要な判断だけを、必要な速度で処理していく。
周囲が追いつくかどうかは考えない。
動ける者が動けばいい。
動けない者は、いずれ動ける者に置き換わる。
それだけのことだった。
だが、一つだけ。
その基準に当てはまらない存在がいる。
橘。
九条の手が、ほんのわずかに止まる。
給湯室での会計の言葉が、そのまま事実として整理される。
橘は、自分にここにいる理由がないと思っている。
部外者だと思っている。
その認識は、今後の継続性を損なう。
それだけを判断する。
不要。
処理はすぐに次へ移る。
必要なのは訂正ではない。
説明でもない。
橘が、自分で「ここにいる理由」を失わない状態。
その状態を維持する。
九条は静かに次の書類へ手を伸ばした。
視線だけが一度、生徒会室の入口へ向く。
そこに橘の姿はない。
すぐに視線を戻す。
書類の束を見渡す。
役割。
担当。
配置。
静かに整理されていく。
九条は何も口にしない。
表情も変わらない。
ただ、生徒会という組織の中で、一つだけ条件を書き換えた。
橘。
滞在理由。
必要。
それだけを更新し、九条は再び書類の処理へ戻った。
紙をめくる音だけが、生徒会室に静かに響いていた。
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