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第21話 【おまけ】期末テスト返却

 期末テストの結果返却日。  教室は朝から落ち着かない空気に包まれていた。 「終わった……」 「数学、絶対赤点だ」 「いや、英語だけは頼む」  返却された答案が机の上を飛び交い、あちこちで悲鳴や歓声が上がる。  橘も担任から答案の束を受け取り、自分の席へ戻った。  一枚目。  二枚目。  三枚目。  赤ペンで書かれた点数を見て、思わず手が止まる。 (……え?)  見間違いかと思って、もう一度見る。  国語。  数学。  英語。  理科。  社会。  どの教科も、これまでより大きく点数が伸びていた。  苦手だった数学まで八十点を超えている。 (上がってる……)  いや。 (上がりすぎだろ)  胸の奥が少しだけざわついた。  努力した覚えはある。  放課後は毎日のように九条と勉強した。  分からないところを教えてもらい、何度も解き直した。  けれど、それでも。 (こんなに変わるものか?) 「橘!」  後ろの席から声が飛ぶ。 「見せろ見せろ!」 「え、うそだろ!」  答案をのぞき込んだクラスメイトが目を丸くする。 「お前、今回めちゃくちゃいいじゃん!」 「順位かなり上じゃない?」 「どうしたんだよ急に!」  次々と人が集まってくる。  橘は苦笑しながら答案を抱えた。 「いや、俺もびっくりしてる。  勉強したとはいえ……」  自分でもまだ実感が湧かない。  答案へ視線を落とす。  そこに浮かぶ数字は、今までの自分とは違って見えた。  ふと、放課後の応接室が頭に浮かぶ。  机を挟んで座る九条。  ノートに走る細い文字。 『ここは前提から考える。』 『公式を覚えるな。理由を理解しろ。』  短く、無駄のない説明。  問題を一問解くたびに、少しずつ霧が晴れていくような感覚。 (……あれか。)  ようやく腑に落ちた。  丸暗記ではなく、理解して解けるようになっていた。  だから応用問題でも手が止まらなかった。 (九条、教えるの上手いんだな。)  素直にそう思う。  そこへ、また別の声が聞こえた。 「橘ってさ。」 「ん?」 「九条と勉強してたんだろ?」  一瞬だけ周りが静かになる。 「ああ。」  橘は何気なく頷いた。 「へぇ……。」  それだけ言って、相手は答案へ視線を戻す。  誰も続きは言わない。  けれど、何人かが小さく顔を見合わせていた。 (やっぱり。) (九条と一緒だったからか。)  そんな空気だけが、教室を静かに流れていく。  橘はその視線の意味には気づかない。  答案を鞄へしまいながら、小さく笑った。 (また分からないところがあったら、九条に聞こう。)  その発想が、もう自然になっていた。  放課後。  生徒会室では、九条がいつも通り書類を整理していた。  会計が返却された成績表を机に置く。 「橘くん、結構伸びてたよ。」  九条は一枚だけ視線を落とす。  順位。  点数。  教科別の推移。  数秒で確認を終える。  書類を閉じる。  それだけだった。  会計が苦笑する。 「驚かないんだ。」 「想定内。」  短い返答。  九条は再び目の前の書類へ視線を戻した。  紙をめくる音だけが、生徒会室に静かに響いていた。

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